そこで、「イノベーションへの適合力」をみるために、新技術導入に向けた組織の柔軟性や人材育成の在り方、ICT投資を含む無形固定資本への投資、新たな技術や商品を生み出す起業家精神やリスクマネーの供給、規制や電子政府の進展度などの切り口で考察する。第4次産業革命の進展を促す制度面に焦点を当てて、国際比較を通じて現状を概観する。
イノベーションを生産性向上につなげていくためには、企業組織の柔軟性も重要な要素となり得る。特に、日系企業は、米国企業と比較して、「意思決定の迅速化」や「人件費の削減」など、プロセスイノベーションに資する効果をより期待している点も特徴である。
第4次産業革命によるイノベーションをプロセスイノベーションにつなげて生産性を向上させるためには、企業の人材の再訓練や働き方の見直しが重要になる。そこで、企業の人的資本投資が粗付加価値に占める割合を国際比較すると、日本では、製造業で4%程度、非製造業で3%程度となっており、欧州諸国や米国と比較すると、かなり低い水準にとどまっている。人的資本投資の割合を製造業、非製造業別にみると、日本の場合、特に非製造業において人的資本投資が相対的に低い水準にとどまっていることが分かる。
イノベーションを生産性向上につなげていくための経路や効率性の追求という観点では、資本や労働といった経営資源を再配分するメカニズムが有効に機能することも重要である。中小企業の企業年齢別の割合をみると、日本は、企業年齢10年以上の企業が全体の7割程度を占めており、設立後2年以内のスタートアップ企業の割合は、諸外国の中で最下位となっている。
また、開業率や廃業率をみると、日本はそれぞれ4%から5%程度の水準であり、米国、英国、ドイツと比べて低い水準となっており、企業の参入と退出が相対的に不活発で、新陳代謝が行われない現状が示されている。
日本で新規参入企業が少ないことの背景としては、諸外国と比べて、起業家精神の低いことがあると考えられる。日本では起業する意思のある人の割合が極端に低いが、その背景をみるために起業に関連した質問の回答状況をみると「失敗に対する恐れが大きいこと」「成功した起業家に対する尊敬度合いが低いこと」「起業家の女性比率が低いこと」などが示されている。
こうしたリスク回避的な姿勢の背景の1つとして起業家精神を醸成する教育が行われてこなかった点が挙げられる。OECDの調査で「学校教育において事業経営のスキルやノウハウを提供していると考えるか」という質問に対し、日本で「そう思う」と回答した人の割合は対象国の中で最も低く、これまでの日本の教育において起業家精神を養うという観点の薄かったことを示している。
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