他方、グーグルと相対するグローバルプラットフォーマーも、相互運用性の標準化における医療界との連携を積極的に推進している。例えば、2018年7月2日、オハイオ州を本拠地とするクリーブランドクリニックは、アップル(Apple)のプラットフォームを利用した個人健康記録PHR)サービス「Health Records on iPhone」をリリースしたことを発表した(図2参照、関連情報)。
アップルは、2018年1月24日、電子保健医療情報の相互運用性に関わる標準規格「FHIR (Fast Healthcare Interoperability Resources)」に準拠した「Health Records」の機能を、iOS 11.3 beta版でアップデートし、米国内の主要医療機関との連携を強化することを公表していた(関連情報)。さらに同年6月4日、「Health Records」のAPIを開発者向けに公開したことを公表している(関連情報)。これにより、開発者は、APIを利用して、薬物治療トラッキング、疾病管理、栄養計画、医療リサーチなどのアプリケーション機能との連携が容易になった。
クリーブランドクリニックが導入した「Health Records on iPhone」では、電子カルテベンダーEpicのモバイルアプリケーション「MyChart」(図3参照、関連情報)と連携しながら、患者が自分の健康記録をスマートフォン経由でチェックできる機能などを提供している。「MyChart」のメッセンジャーや診療予約管理、医事会計管理などの機能も、合わせて利用できる。
米国では、2018年4月24日、保健福祉省(HHS)のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が、オバマ政権時代の電子健康記録インセンティブ(Meaningful Use)プログラムに代わるルールとして、病院の価格情報へのアクセスの向上を通じで患者に権限を付与し、患者の電子健康記録へのアクセスを改善し、供給者が簡単に患者との時間を費やせるようにすることを目的とした「相互運用性の促進(Promoting Interoperability)」ルールの改定案を発表している(関連情報)。CMSは、改定案の柱として、以下の3点を掲げている。
CMSは、相互運用性を促進する最新技術として、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の利用を挙げ、患者自ら、複数の供給者から保健医療情報を1か所のポータルに集約して、供給者‐患者間の情報フローを改善する可能性があるとしている。
前述のグーグルもアップルも、eコマースや電子決済など、コンシューマー主導型サービスの中核機能として、オープンAPIを推進してきた経緯があり、デジタルヘルスのテクノロジーやビジネスの流れが大きく変わる可能性が高い。そのような動きをにらみながら、医師会、薬剤師会、看護協会といった医療分野の職能団体、学会組織がどう対応していくのか、今後の動向が注目される。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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