ロームのグループ会社であるローム・アポロは、筑後工場にSiC(炭化ケイ素)パワーデバイスを生産する建屋を新設する。2025年まで積極的な設備投資を行い、SiCパワーデバイスの市場拡大の中でシェアを広げていく。
ロームは2018年4月10日、東京都内で説明会を開き、グループ会社のローム・アポロの筑後工場でSiC(炭化ケイ素)パワーデバイスを生産する建屋を新設すると発表した。投資額は生産設備に130億円、建屋に80億円となる。SiCパワーデバイスのシェアを30%に拡大すべく生産能力を増強する。国内に新工場を設けるのは12年ぶりだ。
新工場は2020年12月の完成を予定している。延べ床面積は1万1000m2で地上3階建てとなる。生産設備はウエハーの口径で8インチまで対応しているが、当面は6インチのウエハーでの生産が主となる。
SiCパワーデバイスのロームのシェアは、2018年に20%となる見通しだ。シェアを引き上げるため、2025年に向けて生産能力は現状から16倍に増やす。SiCパワーデバイス関連の設備投資も拡大し、2024年度までに累計で600億円を投じる。内製で品質を高めたウエハーを使用することにより、他社のパワー半導体との差別化を図る。
SiCパワーデバイスは多分野で急速に普及していることから、2025年に市場規模は23億ドル(約2400億円)に拡大すると見込む。「各社の調査では、2025年の市場規模は保守的な予測で16億ドル(約1700億円)、高く見積もった予測で40億ドル弱(約4283億円)となるが、われわれの見通しは自動車メーカー各社からの引き合いを基にしている。高級車から大衆車まで、欧州の自動車メーカーから具体的な量を聞いている」(ローム 専務取締役の東克己氏)。
また、ウエハーメーカーがパワー半導体向けのSiウエハー生産に対する投資を抑制する方針を示していることや、さまざまな製品での半導体の需要拡大でSiウエハーの供給が不足していることを受けて、「SiCパワーデバイスの評価が前倒しで進んでいる」(東氏)という。
これを根拠にロームは積極的な投資を続ける。市場が想定よりも拡大する場合は、それに応じて設備投資を増やす方針だ。
SiCパワーデバイスの採用拡大のけん引役となるのは、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)向けのインバーターや車載充電器、充電ステーションだ。既に量産モデルでローム製品の採用実績もある。自動車向け以外にも、太陽光発電のパワーコンディショナーや蓄電システム、仮想通貨の普及で需要が高まるサーバといった製品で採用が増えると見込む。いずれの製品も、電力の変換損失低減による高効率化や、低抵抗・高速動作による機器の小型化の需要が高く、SiCパワーデバイスを採用するメリットが出やすいためだ。
車載用では、バッテリー容量を増やして長い走行距離を確保するEVが増えていることにより、車載充電器でのSiCパワーデバイスのニーズは特に高まっているという。「電池容量が増えれば充電時間が長くなる。今までと同じ時間で充電するには、車載充電器が扱える電力を増やさなければならない。車載充電器を大型化するよりも、コストをかけてでもSiCパワーデバイスを採用して小型化を進める方向に進んでいる」(ローム パワーデバイス生産本部 統括部長の伊野和英氏)。
一方、インバーターでのSiCパワーデバイスの採用はバッテリーのコスト低減の動向にも左右される。
「SiCパワーデバイスでインバーターの効率が向上すると、走行距離を維持しながら電池容量を減らすことができる。IGBTのインバーターでバッテリー容量が50kWh、走行距離が500kmのEVの場合、SiCパワーデバイス採用のインバーターでバッテリー容量を46kWhに抑えられる。バッテリー分のコストダウンが、SiからSiCに変更することによるコスト増加分を上回れば採用する意味がある。走行距離を長く設定したEVほどメリットが出る」(伊野氏)。しかし、バッテリーそのもののコストダウンが進めば、車両に搭載する電池容量を減らす意義が弱まる。
環境規制の強化に対応するため、自動車メーカー各社が2020年前後でEVの市場投入を大きく増やしていく。日系以外の自動車メーカーはSiCパワーデバイスの採用に積極的だという。
「現在開発中で2022〜2023年ごろに発売されるEVの中で、使用する電力の大きいモデルでSiCパワーデバイスが採用される。数量ベースではIGBTを上回るほどは多くないが、採用事例が増えてくる。その次に投入される次世代のEVでは一定比率がSiCパワーデバイスを使うだろう。そこを受注していきたい」(伊野氏)
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