既に量産車への適用が始まっている車載ソフトウェア標準「AUTOSAR」。これまでMONOistでAUTOSARの解説連載を2回執筆してきた櫻井剛氏が「AUTOSARを使いこなす」をテーマに新たな連載を始める。第1回は、まず現状を確認するためにAUTOSARの最新動向を紹介する。
これまで、車載ソフトウェア標準であるAUTOSARについて、MONOistで2回ほど連載記事を執筆してきました。既にAUTOSARは量産車への適用が始まっていますが、その使いこなしという意味ではいろいろと課題があります。
そこであらためてMONOist編集部から「AUTOSARを使いこなす」というお題で連載の依頼をいただいたのですが、気が付けばはや1年半が経過してしまいました。今回以降、少しのんびりしたペースでの記事掲載になるかとは思いますが、少しずつ書いていきたいと思います。
さて、今回の連載のテーマは「AUTOSARを使いこなす」です。とても難しいテーマですが、その意味からあらためて見つめ直し、また技術面に限らず運用面全般に関して(むしろ、解決が一層難しい非技術面に重点を置きながら)、多くのユーザーやJasPar AUTOSAR標準化WGなどの関係者の方々などからのご意見も反映しつつ、これまでの導入や運用における経験などからの学びを、少しでも皆さまにお伝えできればと考えています。
現時点では4〜5回分の原稿案を用意しています。また、内容に関するリクエストをいただければ、できるだけその内容も追加/反映していきたいと考えています。リクエストなどございましたらどうぞ筆者宛にご連絡ください(次回以降に連絡方法をお知らせします)。
さて、すぐに本題に入りたいところですが、書き始めてみると「変化」の把握の重要さをあらためて実感させられています。実際に、前回の連載(2015年7月〜2016年7月)からまた大きな変化もありました。変化がまだ続くか否かで、AUTOSAR規格のユーザーとしての皆さまの今後の方針に対する考え方も大きく変わってくることと思います。
そこで、本連載の第1回では、まずAUTOSAR全般の近況や動向を簡単にご紹介しましょう。
AUTOSARの登場の背景や、従来の成果(後述のClassic Platform(CP)に関するもの)に関する解説記事は既に複数存在します。本連載では、それらの概要をあらためて解説することはいたしませんが、不明な用語などが出てきました際には、例えば、筆者による前回の連載をまずはご一読いただけますと幸いです。
⇒連載「AUTOSAR〜はじめの一歩、そしてその未来」バックナンバー
ここからは、上記の前提知識の範囲ではカバーされていない新たなトピックを中心に取り上げていきたいと思います。
ECU(電子制御ユニット)の分類方法にはさまざまなものがあります。ECUに利用されるソフトウェアプラットフォーム、という視点では、インフォテインメント系ECUと従来型の制御系ECUの2種類に分けられることが多かったのではないかと思います。しかし、最近のADASや自動運転(AD)の急速な発展によって、これまでとは異なる性質を持つECUも登場してきています。これに対応するのが、AUTOSAR Adaptive Platform(AP)です(表1)。
従来型制御系ECU | ADAS/ADで登場したECU | インフォテインメントECU | |
---|---|---|---|
リアルタイム性の要求 | 高 | 中 | 低 |
想定する安全面の要求 | ASIL Dまで | ASIL B以上?(Bでは不足の声も)※1) | QM(QMでは不足の声も) |
演算能力の要求 | 低 | 中〜高 | 高 |
動的な動作のサポート | 不要 | 必要 | 必要 |
通信面の要求 | 比較的低速 シグナル指向のコネクションレス型の通信 |
V2Xなどへの対応 シグナル指向に加えサービス指向通信もサポート |
各種 |
一般に採用されるソフトウェアプラットフォーム | スケジューラ、OSEK/VDX OS、AUTOSAR Classic Platform(CP) | POSIXのPSE 51プロファイルを前提としたAUTOSAR Adaptive Platform(AP) | POSIXの各種プロファイル、AUTOSAR AP(用途に制約あり) |
表1 ソフトウェアプラットフォーム視点でのECUの分類と、それぞれの性質。AUTOSARの資料を基に一部筆者が追記 |
※1)ここに「?」を付けたのは、APが想定しなければならない安全面の要求(安全面には限りませんが)は、今後の使われ方(ソフトウェアプラットフォームに対する市場ニーズ)次第で変化し得るためです。既に、ASIL Bでは不足という声も多く聞かれています。
2018年は、AUTOSARに新たに加わったAPの量産適用向けの初のリリースを迎える年となります(2018年10月予定)。
APは、従来のAUTOSARでは対応が難しかったような分野、例えば、動的な振る舞いの面でより高い自由度が求められるインフォテインメント※2)やコネクティビティなどの分野や、各種商用オフザシェルフ(COTS)やオープンソースソフトウェア(OSS)の利用が活発な他分野から知見や成果物の取り込むことが期待される分野、そして、より強力な演算能力を必要とする分野にも適用範囲を広げるために追加されたものです。
※2)APがインフォテインメント系ECUをカバーしないと主張なさる方もおいでですが、今のところ、全くカバーしないというわけではないようです。また、AP R17-10 SWS Communication Managementにはインフォテインメント系ECUに関する言及も存在します。
それらの分野に求められる性質のため、POSIX OSをベースとしていますが、安全の面に配慮し、一般のインフォテインメント系ECUよりも使用上の制約条件が厳しくなっています。
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