APとCPは互いに完全に独立したものではありません。例えば、APベースのECUとCPベースのECUは同一のネットワークに接続され得るものですので、各種通信プロトコル面での互換性が必要になります。また、システム設計情報などの受け渡しの形式も、AP/CPで共通にしておかなければ、特に自動車メーカー側での管理がより複雑になってしまいます。共通にすべき要素は他にもまだ出てくるでしょう。
これらの共通部分を切り出して定義したのが、Foundation(FO)と呼ばれる仕様書群です。この切り出し作業は順次進められており、その作業の一区切りをつける目標時期も、やはり2018年10月となっています。
これまで述べましたように、AUTOSARにはまだまだ多くの変化があります。本稿執筆の時点(2018年1月)では、2018年10月のリリースという重要なマイルストーンに向けた作業に注力しており、その先の予定に関する公式なアナウンスはまだありません。
また、今のところ、AUTOSARの標準化を行うメンバーや実際の利用者の大多数は、APがCPを置き換えるとは考えておらず、補完的なものと見なしています。また、APが登場したからといっても、CPの改定が止められてしまうわけではなく、現在もセキュリティやV2X/車載イーサネットなどに関する拡張や改良が活発に進められています※3)。マルチコアシステムでの使いやすさの改善に関する議論も行われています。
※3)かと言って、いつまでも変更が可能というわけでもありません。将来、従来のものとの互換性に影響のない程度の小変更や不具合修正を除いては、変更ができなくなってしまう時期がやってくるかもしれません。
中には「APだけがあれば良い、CPを完全に置き換えることができる」ということを声高におっしゃる方々もいらっしゃいます。しかし、実際にはまだ解決すべき多くの課題があります。比較的分かりやすいところでは、例えばスタートアップ時間の大幅な短縮がまだ必要であることが、良い例になるでしょう。
ですから、「いつかはそのくらいまでAPを仕上げたい」という意欲や期待がそのような発言に現れているのだと考えるのが自然だと思います。また、そのような発言を完全に「ありえない」と切り捨ててしまうのは、さすがに行き過ぎでしょう。性能などの問題は、時間が解決してくれることも十分に考えられますし、「それが現実になればうれしい」ということを言い続けるだけでも、ニーズや期待があることは市場に伝わりますので、そのことで投資が行われやすくなったり継続されやすくなったりするでしょう※4)。
※4)ただ、本音を代弁すれば、「口だけでのタダ乗りではなく、金や人手も出してほしい」ですが。
しかし、「それに対して自分は何をするのか」と考えることはもっと重要です。「ありえない」「未解決の課題がある(から、まだ実現できない)」の一言で考えることを止めてしまうのではなく、何がどうなれば実現できそうなのか、しばらくは様子見をするのか、積極的な支援を行うのか、支援するとしたら何ができるのか、などは考えてみるべきでしょう。
何よりも重要なことは、当たり前のことですが「誰かが言っているからといって、うのみにしてしまわないこと」、「現時点での判断や情報は、あくまでスナップショットであり、永久に有効だとは考えないこと」、そして「期待を持ちつつ見守り、標準化への参加について真剣に(結論ありきではない)議論をしてみること」だと思います。
以上、AUTOSARの近況と今後の展開を簡単にご紹介しました。新たなトピック/近況について、もう少し詳細な内容をいずれはご紹介していきたいとも考えています。
しかしながら、AUTOSARのCPについては、既に量産開発の現場で触れる機会も増えてきて、「目先の問題」となっていることと思います。多くの方にとっては、おそらく、CPを中心とした振り返り(一種のlessons learned=学んだ教訓)の方が有益なのではないかと考えています。そこで、次回はそちらからスタートしたいと思います。
まずは、「使いこなす」ということに関する、幾つかの問いかけからスタートさせてください。
次回からは、これらの問いを絡めながら、「AUTOSARを使いこなす」ということを考えていきたいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.