静粛性と乗り心地のチェックには特殊路も用いた。これは文字通り、路面にさまざまな細工をしたコースで、ロードノイズを意図的に発生させることで静粛性を比較でき、バンプを通過することで突き上げ感なども比べられる。ここでも新製品のV552は、従来品V551とは格段の乗り味を見せつけた。
大きく荒れた路面ではゴーッと響いていたロードノイズがボーッと音質鈍く、音量も2ランクくらい小さくなり、表面が細かく荒れている路面ではザーッと響いていたノイズが、サーッとほとんど気にならないレベルに。カセットテープ時代のドルビー・ノイズリダクションを思い出すほど、テキメンにノイズが抑え込まれたのを体感した。バンプ通過の突き上げ感も同じ内圧とは思えないほどマイルドで、後席の快適性は格段に向上していると実感できた。
最後に一般道から峠道を走って、ドライグリップや一般道での静粛性を確認した。ここで借り出したのは日産自動車「ノート e-POWER」。エンジンを搭載しているものの、駆動力はモーターのみでまかなうため、実質的には電気自動車(EV)であり、ADVAN dBの静粛性の高さがどう印象を変えるか、興味があったからだ。
標準タイヤでは軽快さもあるEVという印象だったが、ADVAN dBを履かせたノート e-POWERはしっとりと路面に吸い付くように走り始めた。これには驚いた。タイヤが静かになった分、エンジン音が目立つ感もあるが、絶対的な静かさ、身体に伝わってくる微震動は明らかに減った。しかも、峠道では高いグリップ力で元気のある走りも楽しませてくれた。スキール音の発生が早めな印象だが、これはタイヤの限界が近づいていることをドライバーに穏やかに知らせてくれるものと考えることもできる。
同じように一般道で試したマツダ「アテンザ」は走行中の突き上げが穏やかになり、上質感がさらにワンランク高まった。アッパーミドルのコンフォート性をタイヤだけで高めるには、最適のタイヤかもしれない。
静粛性の極みとウエット性能の高さに加え、ADVANらしいスポーツ性が隠し味に込められた新しいdBは、横浜ゴムらしいプレミアムコンフォートタイヤに仕上がっていた。欲張りな性能を最新技術で実現しつつ、没個性にならないあたりが絶妙だ。こうした考え方、仕上げぶりは多機能&高級志向の工業製品に広く当てはまると思う。こだわりをもつユーザーに対し訴求力の高い商品を提案する、最適なアプローチの手本ともいえそうだ。
高根 英幸(たかね ひでゆき)
1965年生まれ。芝浦工業大学工学部機械工学科卒。輸入車専門誌の編集部を経て、現在はフリーランス。実際のメカいじりやレース参戦などによる経験からクルマや運転テクニックを語れる理系自動車ライター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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