農業とITの両方の知識を兼ね備える人材も少ない。適切な導入契約やコストシミュレーションができず、「試してみた」で終わってしまうケースも多い。
農業ITの分野においてはオープン化も遅れている。農林水産省や内閣官房は危機意識をもって啓発しているものの、状況は進展しない。
水田管理における課題の例として、齋藤氏は袋井市における実情を紹介した。袋井市内の水田は2300ヘクタールある。そのうち、経営体(農業者)は2000。さらに、10ヘクタール以上耕作している農家は45経営体で、1475ヘクタールの水田を見ている。つまり、全体の2%の経営体で、7割以上の水田を管理しているということになる。
大規模農家の所有する水田は一カ所に集中しているとは限らず、広範囲に点在していることが多い。水田作においては、季節ごとに適切な水管理を行い、生育状態を見極めて管理しなければならない。農家の人は毎日、早朝と深夜の2回、軽トラックに乗って数百枚の田んぼを巡回して、水田の水の抜き入れをしたり状態を見たりしていく。人員は集約されているものの、水田は集約されていない。
水田作の主な作業は、おおよそ「田植え・稲刈り」「雑草除去」「水管理」「農薬散布」の4つに分類できる。田植えや稲刈りはトラクターの自動運転技術、雑草除去については草刈りロボット導入、農薬散布についてはドローンの活用といった取り組みが適用できる。水管理については、4つの作業のうち最もIT導入のコストが安く済み、かつ導入効果が高いという。
よって、コンソーシアムでは以下3つの技術開発方針を決めている。
例えば、静岡県を流れる天竜川は水量がそれほど多くないという。その下流域では水が不足していることもある。水そのものを最適化するためは、河川の管理をする地域機関とも連携を取る必要がある。また静岡県では、土地改良区が統合的に活用するICTシステムの整備も推進している。そうした地域戦略とも強い一体感を持って取り組む必要がある。
同プロジェクトでは、IoT向け無線通信技術を用いたネットワークであるLoRaWANを用いてシステムを構成している(以下の図)。LoRaWANは無線免許を必要としない周波数帯域を利用するオープンな通信規格であり、伝送距離も最大で約10kmある。約400個のデバイスをプロジェクト協力する農業経営体が実際に全ての水田に設置して検証に取り組んでいる。
LoRaの基地局に集められたデータは、IoTプラットフォームに集約し、さらにアプリで農業経営体や自治体などとつなげ、データを受け渡しするというエコシステムを構築することを目標としている。地図と連携する、水田一括管理のシステムも開発中だ。センサーなどデバイスの検証においては、齋藤氏も水田に入り込んで、足を泥だらけにしながら取り組んできた。山に登って無線の基地局の設置テストも実施している。
センサーの開発においては、「とにかくコスト優先」だと齋藤氏は説明する。センサー価格は1個につき1万円を目標としている。水位と水温の測定に特化させることで、コストを抑えようとしている。自動給水弁については1個当たり4万円が目標で、既存の開水路技術を用いるなど技術を共通化することでコスト抑制に取り組む。コストダウンの一方で、製品の品質を落としてはならない。製品化する上で、いかに原価を抑えるかは課題であり、かつ悩ましいという。
「農家が使いやすいモノ」ということで、メンテナンス性も高さや耐久性も課題だ。泥や藻、虫、薬といったことを原因とする問題が、実際に現場で試してみることで浮き上がってくるとのことだ。
今後の研究スケジュールとしては、まず2017年度中には試作機開発とフィールド事前調査を実施。2018年には圃場での試作機設置や実証動作試験を実施し、経営体のフィードバックに基づいて改良を進める。2019年には量産化に向けた効果検証とアプリ/システム開発、地図システムとの連携などに取り組んでいくということだ。
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