AI技術として注目を集めるディープラーニング。ディープラーニングへの取り組みを進めていく上で必要とされる人材には「エンジニア」の他に「ジェネラリスト」も必要だ。本稿では、ディープラーニングの「ジェネラリスト」に何が求められるかについて解説する。
ディープラーニング(深層学習)が国家の産業競争力に与える影響は極めて大きくなっています。例えば、オックスフォード大学の准教授であるマイケル・A・オズボーン氏によれば、世界のディープラーニングの市場規模は2024年までに400億米ドル(約4.4兆円)を超えると予想されています。これは、ディープラーニングが、電気やトランジスタ、あるいはインターネットのような、産業のゲームチェンジャーとしての働きを期待されていることを意味します。
しかし、ディープラーニングの活用事例を事細かに観察してみると、それらの多くは米国や中国のものであることが分かります。この2国のインターネット関連企業は、世界最高の著名な研究者を迎え、多額の資金を投じて研究所を設けています。その一方で、残念ながら日本国内の現状はというと、投じられる予算はこれら2国と比べて文字通り桁違いに低く、事業開発や人材育成も十分に進んでいない状況です。
こうした差は今後も指数関数的に開いていくことが見込まれます。まさに今こそが、日本がディープラーニングで生き残りをかけられる“最後のチャンス”といえます。今後5年、10年と、これまでと同じ状況が続けば日本の産業に未来はありません。われわれ日本ディープラーニング協会(以下、JDLA)は、この“最後のチャンス”をつかむべく、ディープラーニングの社会実装による日本の産業競争力の向上に向けた取り組みを推進しています※)。本稿では、その活動の中でも「ジェネラリスト」という人材の育成に焦点を当てて解説します。
※)関連記事:日本ディープラーニング協会「モノづくりとの組み合わせで新たな産業競争力に」
さて、ディープラーニングについて育成すべき人材は大きく分けて2種類あります。1つはエンジニア、そしてもう1つが今回のテーマであるジェネラリストです。JDLAでは、このジェネラリストを「ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して事業応用する能力を持つ人材」と定義しています。ジェネラリストは、以下の2項目を兼ね備えている必要がある、とJDLAは考えます。
目指すものはディープラーニングの利活用ですが、ジェネラリストの役割の上で最も重要なのは、結局のところ事業のKPI(Key Performance Indicator)を向上しようとする強い目的意識です。ディープラーニングは国際的な産業競争力を高める技術になるものの、まずは「事業の利益を分解して得られる『どの』数値が『どれだけ』改善すれば満場一致で文句なしといえるのか」という意思共有が前提になります。
こうした考え方は、あらゆるビジネスにおいて共通する考え方です。しかし、ディープラーニングに関わる議論では、特にKPIの向上を重視していただきたく思います。なぜなら、ディープラーニングはビジネスにおけるインパクトが大きい反面、その活用が難しいという難点も抱えているからです。まず、ディープラーニングは多くの場合、限られた条件でないと、効果を発揮しづらいのです。かつ、投資対効果の見積もりも実際に試してみるまで分かりません。さらには、モデルの学習結果の解釈も難しいためにうまくいかなかった理由もはっきりしません。
ジェネラリストには、そのようないわば三重苦の中で、事業利益と技術活用の両者を結び付け、価値のある利活用を生み出すことが期待されます。こういった活躍によって、ビジネスサイドの人材が「うちの会社もAIで何かやりたい」「ディープラーニングっていうの使って何か成果出してみて」といった漠然とした発想から抜け出し、技術知識に基づいた本質的な議論を進めていくことが必要なのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.