熊本大学は、国立環境研究所、京都大学らと共同で、急性心筋梗塞登録事業のデータを利用した環境疫学研究を行い、アジア大陸の砂漠域に由来する黄砂が心筋梗塞の発症と関連していることを明らかにした。
熊本大学は2017年9月4日、熊本県内の医療機関や熊本県の協力を得て実施している急性心筋梗塞登録事業のデータを利用した環境疫学研究を行い、アジア大陸の砂漠域に由来する黄砂が心筋梗塞の発症と関連していることを明らかにしたと発表した。
同研究では、黄砂が比較的多く観測される九州地方の中でも、熊本県内で発症した急性心筋梗塞を網羅的に登録している「熊本急性冠症候群研究会」のデータベースを用いて、黄砂と急性心筋梗塞発症との関連を解析した。
その結果、黄砂を観測した翌日に急性心筋梗塞を発症するオッズ比(相対危険度の近似値)は1.46(95%信頼区間1.09〜1.95)で、黄砂観測後に急性心筋梗塞患者が増えるという関連性が明らかになった。微小粒子状物質(PM2.5)、光化学オキシダント、二酸化窒素や二酸化硫黄といった大気汚染物質の影響を考慮しても、関連性に変わりはなかった。
また、患者を背景要因で群分けし、黄砂と心筋梗塞の関連性を検討した結果、75歳以上の高齢者、男性、高血圧、糖尿病、非喫煙者、慢性腎臓病で、黄砂と急性心筋梗塞発症に関連性があることが分かった。中でも、慢性腎臓病があると、ない場合に比べて有意に黄砂の影響を受けて急性心筋梗塞を起こしやすいという結果が出た。
背景要因が複数ある場合は黄砂の影響を受けやすくなるかを検討するため、項目ごとに1点ずつ割り振った上でそれらを合計し、0から6点までのスコアにした。その結果、5〜6点とスコアが高い群でより黄砂の影響を受けやすいことが示された(オッズ比 2.45、95%信頼区間1.14〜5.27)。
これらの結果から、黄砂暴露が急性心筋梗塞発症のきっかけになることが考えられる。今後は、黄砂の影響を受けやすい背景要因に関する知見を蓄積し、黄砂による健康影響の予防につなげていく考えだ。
同研究は、同大学大学院 生命科学研究部 特任准教授の小島淳氏、国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 主任研究員の道川武紘氏らが、京都大学、工学院大学、国立循環器病研究センターの研究者らと共同で実施した。成果は同年8月29日(現地時間)に、英循環器専門誌「European Heart Journal」に掲載された。
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