では、誰がこの「売り込み活動」を行うのか。候補としては、システムメーカーおよび商社、部品メーカーおよび商社が考えられる。もちろん誰が行っても構わないが、筆者としては商社が行うことに極めて重要な意味があると考えている。
まず、さまざまな産業界へIoTサービスを売り込むのに必要なのは、技術力よりも営業力を有していることが理由として挙げられる。特に最先端技術を必要とする事例はまれで、メーカーの既製品(汎用製品)をそのままカスタマイズせずに使える事例も少数派だろう。エレクトロニクス業界との親和性が低い現場の課題とニーズを把握するのに必要なのは、営業力に他ならない。商社の腕の見せ所と言えよう。
次に、これは特に半導体商社に対して当てはまるが、商社の現業である商品の卸売業だけでは必要な利益を生み出せない状況になりつつあることだ。何らかの新しいサービスを立ち上げて、卸売業以外のビジネスを収益の柱に育てることが各社の急務となっており、IoTで何かできないか、と考える商社は多く存在する。実際に展示会において、IoT関連の展示を行っている商社も多いが、概して展示物は具体性に乏しく、どんな現場でどれだけのメリットがあるのかイメージしにくい。やはり「どんな現場にIoTを導入して、何を改善するのか」が明確でないと、具体的な議論に発展しないのではないだろうか。
IoTをシステム製品として考えようとすると、センサーの数量とスペック、無線通信のプロトコル、サーバの機能とスペック、といったハードウェアの羅列ばかり強調されてしまう。システム構築に必要な情報ではあるが、こんなカタログを農業施設に持って行っても会話は成立しないだろう。大変な労働/手作業を伴う現場において「何とか自動化や効率化を実現できないか」「現場の経験者に頼っている判断をシステム化するためにはどうすべきか」という考察に時間をかけることで、IoTはようやく「概念」から「実用」に進化できる。そしてその進化を実現する業者が、IoTサービスによる収益を手にすることができるのだ。
既に述べたように、この「業者」は誰であっても構わない。しかし、半導体商社、エレクトロニクス商社には、この売り込みに必要十分なリソースが備わっている。それをエレクトロニクス業界との親和性の低い業界に普及させることで、商社にとって新しい付加価値を生み出すチャンスが芽生えるのではないだろうか。言い換えれば、商社が持つリソースを最大限に活用することが、産業界へのIoT普及の近道ではないか、と筆者は考えている。
大山 聡(おおやま さとる) IHSテクノロジー 主席アナリスト
1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職し、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。
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