ここで「業界人」という単語を使わせて頂いたが、これは「エレクトロニクス業界の方々」という意味であり、IoTの導入対象になりそうな産業全体の業界人を指す訳ではない。既に例として挙げた、オフィスビル、商業店舗、工場、倉庫などの関係者を例に取れば、エレクトロニクス業界とはまだまだ親和性の低い、言い換えればIoTの導入など検討したこともない、というケースが数多くあるはずである。ましてや、農業施設や漁業施設に至っては「IoTなんて聞いたこともない」というケースの方が多いのではないだろうか。
例えばある都道府県では、公共サービスの品質向上および経費削減を目的に、民間企業の創意/工夫を積極的に導入するプロジェクトを推進した。この中には、クラウド/IoT関連の技術を導入する提案も多数含まれていたようだが、期待したほどの効果が得られないまま、プロジェクトはいったん終了している。
実際の状況について聞いてみると「提案されたシステムの導入に予想以上のコストが掛かった」「導入によって逆に手間が増えてしまった」「そもそも技術用語がよく分からずに混乱した」などなど、システム提供者が苦笑いしそうなコメントが多く聞かれたのである。
これに対して、ある農業施設にシステムを売り込みに行ったセールスマンの話は対応が全く異なる。このセールスマンは、現場の状況を正確に把握したい一心で農作業を手伝い、現場の課題やニーズを完全に理解した上でシステム提案を行った。そのおかげもあってか、システムの導入には成功したものの、彼自身が顧客から強力にスカウトされて苦労した、という笑い話もあったりする。
前者も後者も極めてありがちな話だが、後者のような事例を増やすためには、このセールスマンのように現場の課題やニーズを正確に把握することであろう。実に当たり前のことではあるが、エレクトロニクス業界との親和性の低い業界に対しては、最初の一歩に想定外の手間暇がかかることがあり得る、という覚悟を持って臨むべきなのだ。言い換えれば、想定外の手間暇をかけて最初の一歩を乗り越えれば、顧客に対して極めて大きな価値を提供でき、双方がWin-Winの関係を保つことができるはずである。
初期コストが高い、というだけで導入を断念される事例もあるようだが、顧客にシステム導入の経済効果を理解してもらえるのであれば、導入コストをゼロにするような金融プログラムを活用するなど、手法はいろいろと考えられるだろう。システム代金を回収してビジネスが完了するよりも、システムの運用をサポートしたり、データ分析を手伝ったり、追加機能について相談したりと、ビジネスの継続性を重要視することも忘れてはならない。
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