多くの買収で揺れ動いたCAD周りの10年、今後はユーザー側が買収に乗り出すかCAD/PLMの10年史(3/4 ページ)

» 2017年09月13日 13時00分 公開
[庄司孝MONOist]

2.異業種の企業を買収した例

 CAD/PLMベンダーが異業種の企業を買収する例も見られる。異業種の買収は、同業他社の買収に比べると件数は少ない。CAD/PLMベンダーにとっては、同業他社を買収した方が関連の技術を獲得できるし、顧客も手に入るからである。しかしながら、事業領域を戦略的に拡大しようとする場合、あえて、異業種の買収に踏み切る例がある。近年行われた異業種の買収で最大のものは、2016年に発表されたシーメンスによる米メンター・グラフィックスの買収であろう。大手PLMベンダーによる大手EDAベンダーの買収は、さすがに業界を驚かせた(関連記事:シーメンスがメンターを45億ドルで買収、「デジタルエンタープライズ」加速へ)。

シーメンスが描く「デジタルエンタープライズ」のイメージ(出典:シーメンス)

 シーメンスは、現在、主要顧客である自動車業界におけるニーズの変化に対応しようとしている。今後、自動運転やEV(電気自動車)などの設計においては、メカニカルとエレクトロニクスの連携、モデルベース開発などの環境が求められる。とりわけ、エレクトロニクスの高度化と半導体の高機能化から、開発環境の抜本的な改革が求められてくるだろう。

 メンター・グラフィックスは自動車向けのブランドを立ち上げ、モデルベース開発環境、ワイヤハーネス設計ツール、組み込みソフト開発ツールなど、自動車設計向けのさまざまなソリューションを展開してきていた。この領域においては、EDAベンダーとして先行していた。そのようなことから、シーメンスはPLMとEDAの連携という新たな段階に踏み込むため、メンター・グラフィックスを買収した。シーメンスは、メンター・グラフィックスをPLMソフトウェア事業部門に組み込む計画である(関連記事:シーメンスPLMはなぜ「半導体」に注力するのか、狙いは新たなプレイヤー)。

シーメンスのPLMであるTeamcenter、メンターの回路設計ツール、カムスターのMESツールをつなげる(出典:シーメンスPLMソフトウェア)

 ダッソー・システムズも異業種企業の買収を進めており、事業領域の拡大を熱心に進めている。2013年には米アプリソを買収。アプリソは製造実行システム(Manufacturing Execution System=MES)の代表的なベンダーであった。ダッソー・システムズは、アプリソ製品をDELMIAブランドに統合している(関連記事:ダッソーがアプリソを2億500万ドルで買収――グローバル製造オペレーションの管理を強化)。

デルミアが展開する「Digital Manufacturing Roles」(出典:ダッソー・システムズ)

 ダッソー・システムズは、2012年に米ゲットコム・ソフトウェアを買収し、GEOVIAブランドを設立。さらに2014年には、米アクセルリスを買収している。アクセルリスは生物学、化学、素材・材料のモデリング、シミュレーションおよび生産の各領域において開発用ツールを提供する企業で、製薬業界、化学業界に2000社を超える顧客を持っていた。ダッソー・システムズは、アクセルリスの買収とともにBIOVIAブランドを設立している(関連記事:“体験経済”時代のプラットフォームを目指すダッソー、カバー領域をさらに拡大)。

 2010年に消費者およびビジネスユーザー向け検索ベースアプリケーションと検索プラットフォームを提供するフランスエクザリードを買収。2012年には、インテリジェントダッシュボード機能を提供するフランスNetvibesを買収。ダッソー・システムズは、これら一連の買収により、3D EXPERIENCEプラットフォーム上で提供されるソリューションの拡大に取り組んでいる(関連記事:天然資源も、環境も「3Dエクスペリエンス」で)。

 PTCも異業種企業の買収により、事業領域の拡大に取り組んでいる。2011年に米MKSを買収。ALM(アプリケーションライフサイクル管理)の事業領域を獲得した。また、2012年には米サービジティクス、2013年に米エニグマを買収。SLM(サービス・ライフサイクル管理)の事業領域を獲得した。また、2014年には、米シングワークスおよび米アクシーダを獲得。IoTの事業領域を獲得している。また、2015年には米Vuforiaの買収により、拡張現実(AR)の事業領域を獲得している(関連記事:IoTで目指すべきは“体験”の拡張、PTCがARとの融合で実現)。

IoTとARを融合した「スマートデザイン」のイメージ(出典:PTCジャパン)

 PTCは、1988年にPro/ENGINEERの発売により、CADのベンダーとしてスタートした。1988年には、コンピュータビジョンの買収によりWindchillを発売。PLMのベンダーとなった。そして、2011年以降の一連の買収により、構想、設計から調達、サービスまで、製品ライフサイクル全体にわたりソリューションを提供できるベンダーとなることをめざしている(関連記事:Windchillはソフトもマテリアルも含めた統合プラットフォームを目指す――PTC)。

 オートデスクは、EDAベンダーであるドイツCardSoft Computerを買収した。CardSoft Computerが開発しているプリント基板設計CAD「EAGLE」は、手軽に利用できる電子回路/プリント基板CADとして、世界的に人気がある製品である。また、オートデスクはIoTサービスの提供を視野に、2015年に米シーコントロールを買収している。

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