Windchillはソフトもマテリアルも含めた統合プラットフォームを目指す――PTCモノづくり最前線レポート(17)(1/2 ページ)

「エンタープライズPLM」環境を提供すべくWindchillプラットフォーム強化を進めるPTC。日米トップ2人が今後のビジョンを語った

» 2010年02月09日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

2010年2月2日、PTCジャパンによる記者説明会が東京(品川)で開催され、来日したPTC社長兼COO Jim Heppelmann氏や、PTCジャパン社長の桑原 宏昭氏が今後の同社の方向性を語った。本稿ではPTCが日本のプレス向けに示した話題から、日本の製造業への同社のアプローチとその先のビジョンを紹介する(編集部)

シングルインスタンスでPLMを実現する強み

 PTC社長兼COOのJim Heppelmann氏はまず、ERPベンダやCADベンダがそれぞれにPLMをキーワードとした活動を行っていることに起因した混乱が起こっている、との現状認識を示したうえで、「私があらためて協調しておきたいのは、PLMシステムにおけるリーダーシップはPTCが取っている、という事実だ」という。

 「PTCはさまざまな企業を買収してきたが、決して『つぎはぎ』のあるシステムではない。PTCのラインアップに加わった製品群はすべてデータモデルが統一されているからだ。CAD、PDM、PLM製品ベンダは多数存在するが、それらを統合して単一のインスタンスで提供できるのはPTCだけだ」(Heppelmann氏)

 シングルインスタンスでデータモデルが統合されている、というのは、Windchillプラットフォーム上で統合された製品群全体を指している。氏によるとグローバルで見て、Windchillの成長率は非常に高く「2010年第2四半期(1〜3月)は、50%増となる見通し(対10〜12月比)」だという。これについては「CADは成熟した市場になりつつあるため、これから大きな伸びは見込めないだろう。しかし、PLMビジネスは現在非常に可能性のある分野になりつつある」との見解を示した。

 一方で、ERPベンダ各社もERPのモジュールとしてPLM機能を取り込みつつあるが、「ERPベンダの提供するPLM機能では実際のところCADデータとの連携は難しい。また、PDM製品をベースとしたPLMを目指すベンダもあるが、実際には全社レベルで適用できていないようだ。また、複数製品によるビジョンを示すベンダもあるが、なかなか具体的なビジョンが見えてないものもある」(Heppelmann氏)

 WindchillをベースとしたPTC製品群は、前述のように統一されたデータモデルを用いることで、上流の構想設計から、調達、製造、販売、保守に至る製品ライフサイクル全体の流れのすべての場面でデータ連携が可能とされる。

 昨年、Windchillプラットフォームにおける各製品群同士のデータ連携についてのテクニカルセッションに参加する機会があったが、それぞれのフェイズで利用するツールごとに、複雑に連携されているものの、すべてスムーズに連携が取れる仕組みが出来上がっていたのが印象的だった。

 データ統合で最も問題になるデータモデルの擦り合わせや、モデリングの過程で発生する「取りこぼし」「重複」といった問題がクリアされている印象だ。実際の運用状況を見ているわけではないが、少なくともシステム設計上の不整合が発生しないような実装が採用されていることが見て取れた。

モノづくりの中でのソフトウェア開発のウェイトは高まりつつある

 Windchillプラットフォームにフォーカスすると、PDMのような設計ドキュメント管理的機能だけでなく、包括的な製品マネジメントが考慮されたラインアップの提供に向けて着々と準備が進められていることがわかる。

 例えば、組み込みソフトウェアのライフサイクル(アプリケーションライフサイクル)管理もWindchillの統合環境下で実現する。現在、すでにアジャイルな開発を実現するSCRUM手法(注)によるプロジェクトマネジメント支援機能や、Microsoft Projectの統合といったビジョンが示されており、2010年内のWindchillプラットフォーム上での提供を目指しているという。

 Heppelmann氏は「例えば、トヨタ『レクサス』には60超のCPUが搭載されているといわれ、関連するソフトウェアのコードは1億行を超える。いまや自動車メーカーはソフトウェア開発企業という側面も持っている」と、ALM(アプリケーションライフサイクルマネジメント)の必要性を語った。ソフトウェア開発のマネジメントに関しては、Windchill Project-LinkでEclipseやSubversion、BTSのBugzillaなどとの連携が実現しているが、今回示されたビジョンは、さらに踏み込んだものとなる。


注:SCRUM手法は組み込みソフトウェア開発に限定されるものではない。アジャイルソフトウェア開発の手法に分類されるが、もともとは企業における製品開発についての論考から発展した手法。詳しくは「SCRUMワークショップ体験記」(@IT情報マネジメント)を参照。


グリーン開発へのニーズもWindchillプラットフォームで実現

 Heppelmann氏は、また、CO2排出量コントロール支援ツール「Rapid Carbon Modeling(RCM)」を提供する「Planet Metrics」を買収したことも付け加えた。詳細は別途ニュースとして紹介しているのでそちらを参照いただきたい。環境配慮型の製品開発への支援が強化されることになる。

 CADデータの流通だけでなく、ソフトウェア開発工程全体のマネジメント機構や、マテリアル管理機構をも共通プラットフォーム上で実現するというPTCの方向性は、セクションを越えた開発マネジメントを実現するうえでも有効となるものだろう。

同社製品ラインアップによる「バリューロードマップ」を手にビジョンを語るHeppelmann氏 同社製品ラインアップによる「バリューロードマップ」を手にビジョンを語るHeppelmann氏

PLMは開発上流工程の基幹となる

 Heppelmann氏は、最後に「PLMは今後、ERPの1モジュールといった位置付けから製品開発上流の基幹プラットフォームを担うものになっていく」とし、ERPのような財務、実行系などとの連携は保ちつつも、原価管理、設計開発戦略、サービス戦略、サプライチェーン戦略などといった上流での戦略策定はPLMプラットフォームなくしては考えられなくなるとし、「エンタープライズPLM」としてのWindchillの必要性を語った。

日本のマーケットを考慮したコミュニケーションを重視する――PTCジャパン新社長 桑原氏

 一方、PTCジャパンは、2009年末に新社長として桑原 宏昭氏が就任した。桑原氏は、日本オラクルにおいてアプリケーションビジネス部門を2006年から2009年まで統括し、牽引(けんいん)してきた人物。Heppelmann氏は「従来のPTCは、たとえ日本法人であっても本国流のスタイルでビジネス展開してきたという反省がある。PTCジャパン初のジャパン・ビジネスユニットの日本人トップとなる桑原氏には大いに期待している」と、桑原氏への期待を語った。

 桑原氏自身も、日本の顧客を知っている強みを生かした事業展開を考えているという。これについては、別途桑原氏にインタビューする機会があったので、本稿別枠で紹介する。

 登壇した桑原氏は日本においてもPLM(Windchillベースの情報管理)はこれから発展する市場である、との認識を示した。

 「日本のマーケットにおけるエンタープライズアプリケーションの市場規模は8000億ともいわれる。そのうちの10%がエンタープライズPLMのマーケットであったとしても800億。これは非常に期待できる市場だ。従来のPTCジャパンではPro/ENGINEERのライセンス販売の比率が高かったが、グローバル展開に積極的な企業が増えつつあり、Windchillへの引き合いも多くなってきている。今後はパートナー企業を増やして販売チャネルを増やしつつ、一方で従来以上に密接にユーザーとのコミュニケーションを図り、きめ細かいサポートを実施していきたい」(桑原氏)

 桑原氏はまた、業績動向についての記者からの質問に応える形で、2010年度は日本法人でも2けたの成長が見込まれており、不況で落ち込んでいた収益も「不況以前の2008年の水準まで回復する」と、明るい見通しであることを明かした。

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野尻 寛氏 アプライド ブリッジ代表で青山学院大学総合研究所 客員研究員の野尻 寛氏は「PLM活用の現状と今後の方向性」をテーマに講演した
野尻氏は「設計図の『図面』という発想から離れ、BOMの製品構成を基軸とした『トップダウン設計』を考える事が重要」と図面ベースからBOMベースの製品開発への移行を訴えた
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