広島大学とマツダによる次世代自動車燃料の共同研究についても話を聞いてきた。
シンポジウムの翌日、広島大学とマツダの共同研究の見学で広島大学 東広島キャンパスを訪問する機会を得た。国公立大学で3番目の面積を誇る広大な敷地には緑が多く、校舎は四角いビルだが茶色の外壁で緑に馴染んでいる。
マツダと広島大学、東京工業大学は「次世代自動車技術共同講座 藻類エネルギー創成研究室」を広島大学大学院 理学研究科内に開設。藻類の高性能化に向けたゲノム編集技術による遺伝子実装や、高性能藻類の能力を最大限に引き出すための最適培養環境の研究を行うと、2017年春に発表した。
これは前日のひろ自連のシンポジウムでもキーワードとなった微細藻類由来のバイオ燃料を開発する共同研究で、プロジェクトには東京工業大学も関わっている。さらに遺伝子工学の分野では日本の権威ともいえる山本卓氏が、広島大学に教授として在籍しているという強みが大きい。
バイオ燃料の実用化に向けて世界中のさまざまな研究機関が取り組んでいる中、マツダは内燃機関をよりクリーンなものとして将来に渡って利用できるよう、クルマに適したバイオ燃料の効率的な生産技術を大学の研究室との共同研究で開発したいという考えなのだ。広島大学としては、「基礎研究は一般的に社会へ還元することは難しいが、第3世代のバイオ燃料の実現を課題を技術的な面からサポートしたい」という姿勢だ。
世界中に藻類は数千種類もの種が存在し、毎年のように新種が発見されている。中でもユーグレナ、シュードコリシスチス、ボトリオコッカスなど、これまで日本ではいろいろな藻類をバイオ燃料の原料として培養する研究が続けられてきた。それに対しマツダと広島大学が選んだのはナンノクロロプシスという種である。これは最大で乾燥重量の60%も油脂を溜め込み、なおかつその油脂が脂肪酸組成で液体燃料向きであること、細胞が小さく増殖も早いという特徴を持つ。
さらに海水性のものと淡水性のものがあり、海水性は海水自体に抗菌や栄養分があるため培養が容易で量産コストが抑えられる上に、コンタミネーション(汚染)にも強いというメリットがある。共同研究のパートナーである東京工業大学 生命理工学院の太田研究室では既にナンノクロロプシスのゲノム情報を解析済みであるため、ゲノム編集を取り掛かりやすい環境が整っているのも採用の理由のようだ。
共同研究では、東工大の太田研究室が油質の燃料への適合性や生産性を高めるための遺伝子戦略を策定し、それを受け取った広島大学 教授の山本氏がゲノム編集を実際に行い、ナンノクロロプシスを高性能化する。そして坂本研究室で高性能化されたナンノクロロプシスの培養方法の最適化を探り、そこで作られた油脂をマツダの高見、野村両氏が油脂特性を評価して、東工大の太田研究室にフィードバックする。
この作業を繰り返すことにより、第3世代バイオ燃料の量産化技術の研究開発は進められる。素の状態のナンノクロロプシスは増殖中には細胞内に油脂を溜め込まず、リンなどが欠乏状態になるなどストレスを与えると油脂を溜め込む。そこでゲノム編集により、増殖と油脂を溜め込む作業を両立するような方向へ性質を変化させるのが目下の目標となる。
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