起動テストに必要なUIをまとめた画面イメージを図1に示します。エンジン起動操作を行うためのスイッチ類と、動作状態を観測するための出力インジケーター、回転数メーターおよびグラフを設定してあります。さらに、クランキング回転数200rpmも画面上で設定し、変更できるようにしてあります。
スターターが回転して、エンジンをクランキングさせる仕組みをプラントモデルに含めていなかったので、起動スイッチが押されている間、エンジン回転数を強制的に200rpmとする簡易スターターロジックを定義し、ここでプラントモデルに追加します。HILS開発用のソフトによくある機能ですが、プラントモデルとは別に簡単な信号処理を行う機能を持っている場合があります。今回はこの機能を利用します。
テスト結果の良否についての判定は、定性的にはUIに表示されるシステムの動作状況を目視で観察・判定します。例えば、起動ボタンを押した直後の燃料ポンプの動作を見れば、正確な時間の測定をしなくても、ポンプ出力はおおむね正常に動作していると判定できます。
しかし、テストに立ち会っていない人に報告するには、これでは不十分です。燃料ポンプがオンする時間をストップウォッチで測定するなど定量的なデータを示すことにより説得力が増します。
HILSでは、UIにグラフを表示するのと同様にデータのログを取ることが可能です。HILSインタフェースのデータやプラントモデルのデータを測定し、HILSコンピュータのハードディスクなどの記憶装置に記録します。このデータをグラフに表示したり、分析して特性値を求めるなどして、機能仕様要件に対する適合を判定することによって、客観的定量的な検証を行います。
図2に、起動機能のテスト結果分析のイメージを示します。グラフから以下のように制御動作の特性値を読み取って、制御の可否を以下のように判定し、4項目全てが合格であることをもって起動機能が正常に発揮されたと評価します。
今回の起動機能テストは、シーケンス制御と呼ばれる起動スイッチオンから始まる条件に対して時間軸でスケジュールされた機能についてのテストです。この機能のテストは、条件を与えてECU出力の変化を見るだけで、機能が発揮されたか否かを評価できるので、テストは比較的単純でした。
一方、エンジン制御のコアとなる機能は、アイドリング機能、発電出力制御機能、過渡性能制御など、エンジン回転数やトルクが連続的に変化する中で噴射量、イグニッション、スロットルのフィードバック制御です。システム状態の変化を含めてテスト条件や判定条件を考える必要があり、より複雑なものとなります。
次回は、エンジン制御のコアとなるこれらの機能のテストについて考えます。
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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