とにかく、選んだ材料にちゃんと働いてもらうためには、それぞれの特性を理解してそれに適した仕事場所と加工方法を選ぶことは鉄則で、これはコストにも直結する大事なことです。
そのために、加工方法も一通り知っておく必要があります。べつに最新の加工方法を知る必要は全然ありません。
これら4つは最低把握しておきましょう。
他にも熱処理、表面処理といった工程を必要とするモノがありますが、これは必要に応じてやることなので、今の段階では「ああ、こういう部品を試作するときには、こういう方法を使えばいいのだな」程度に知っておけばよいと思います。
あまたある材料のうち試作で使われることが多い材料について、おおよその全体像を探るために系統図を書き出してみました。
ざっと書き出しただけでもこれだけバリエーションがあるんですよね。機械材料としてよく使われるのは、金属では「鉄全般」「アルミ」「銅」、非・金属では「プラスチック」です。
「金属」といえば、誰にでもなじみがあるのが「鉄」ではないでしょうか。そして同じく「非・金属」の代表「プラスチック」も、日常生活でおなじみの材料です。家の中や車の中、あるいは店頭の商品など、身近なところのどんな部分にどんな材料が使われているのかを調べてみるとその材料の特性がつかめたりしますから、興味を持って観察してみるとよいと思います。
ところで、この系統図の中に「ステンレス」が見当たりませんよね? べつに書き忘れたわけではありません。ステンレスという金属は、鉄にあれこれ添加して錆びないように作られた「合金鋼」の1つなのです。いくらステンレスが「ボクは錆(さ)びない優秀な材料なのだ」といばってみたところで、元をたどれば「鉄」です。なので、鉄と同じ程度の強さが必要で、かつ錆びてほしくない部品を作る時はステンレスの出番というわけです。
こんなふうに、材料ごとの特性(性格や体質)をつかむには、よく知っている何かを基準にしてそれと比較してどうなのかを見ると分かりやすいです。そうすれば材料選定の大まかなめどがつきます。
それでは、他の主な機械材料の特徴についても見ていきましょう。
まず「アルミ」についてです。アルミの最大の特徴は「軽いこと」ですね。その感覚からか、クルマのホイールを鉄ホイールからアルミホイールに変えると燃費やハンドリングが向上するなどとよく言われますが、実際は言うほどの恩恵はないのではと私は考えています。鉄ホイールより高価で、しかも傷つきやすいので気を使ってしまうという弱点があるからです。傷つきやすいということは、削りやすいという一面を持っているので、比較的加工性のよい材料と言えます。
また、鉄と比べて熱をよく伝えます。だから、ヒートシンク(放熱板)の材料になったりするんですね。ついでに電気もよく通すので送電線にも使われます(どうしてアルミ箔を付けた食器を電子レンジにかけてはいけないのか、分かりますよね。危険なんですよ)。
次に10円玉でおなじみの「銅」についてです。銅は、鉄とほぼおなじ比重の金属です。電気コードを切断すると大体銅線が現れることから分かるように、銅はアルミよりもさらに電気をよく通し、電気だけでなく熱を伝える能力もアルミより優れています。
「真鍮」(しんちゅう)は「黄銅」とも呼ばれ、銅に亜鉛を加えた合金です。なのでステンレスが鉄に属するのと同じく銅の仲間として考えます。
銅を使った身近なモノとしては、電気コードの銅線の他にも鍋や水道の蛇口や継手といったものがあります。耐食性は悪くないですが、酸化皮膜ができやすくすぐ変色してしまうので要注意です。あれこれ利点が多い銅ですが、鉄やアルミ比べるとかなりお高い金属です。なのでコストを鑑みて用途を絞って使います。
さて、非・金属代表の「プラスチック」についてです。機械材料としてのプラスチックは家庭用品に使われるプラスチックとは違って、耐摩耗性、耐衝撃性、曲げ強さといった「機械的強度」を高めた品種がそろっています。品種によっては耐熱性や耐薬品性を高めたものもあって、これらをまとめて「エンジニアリングプラスチック」と呼んでいます。皆それぞれ、用途に応じた特性を持っているので、パッキン、歯車、軸受、ねじといった機械部品として使われています。
おしなべて「軽い」「錆びない」「電気を通さない」という特徴が挙げられ、近ごろは金属に代わって活躍する場面が増えてきています。
慣れない新人のうちは、鉄とステンレスとの見分けすらつかなかったりします。
「鉄は磁石にくっつくけれど、ステンレスは磁石にくっつかない」程度のことは、小学生でも知っていますよね。なので「これは鉄かな? ステンレスかな?」と磁石を近づけて区別したものです。ところが機械材料では、ステンレスの中にも磁石にくっつくものがあるからタチが悪いです。
ただ、それもその材料の「特性」ですから、磁石に付くステンレスに限らず、意外な反応を示す材料に出会ったら、それが何という材種名なのかを調べてメモっておくとよいです。いつかそのメモが役に立つと思います。
次回は、金属材料の定番「鉄」について掘り下げてみようと思います。引き続きよろしくお願いいたします。(次回に続く)
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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