産業革新機構は、精密減速機を展開するハーモニック・ドライブ・システムズと共同で、ドイツの同業企業であるHarmonic Drive AGを買収する。既に技術供与を行っている独自の高精度の遊星型精密減速機の技術の流出を守るとともに欧州への販路拡大を狙う。
産業革新機構と精密減速機を展開するハーモニック・ドライブ・システムズ(以下、HDSI)は2016年12月16日、同業であるドイツのHarmonic Drive(以下、HDAG)を買収することを発表した。既にHDSIはHDAG株を36.8%保有しているが、産業革新機構とHDSIは株式取得のための合同会社を設立し、100%子会社化を実現する。
HDSIは、1970年に設立された精密制御分野におけるメカトロニクス製品や減速装置を主要製品とする企業である。産業用ロボットや工作機械をはじめとする産業用機械向けの精密減速機では高いシェアを保有している。同社の主力製品であるハーモニックドライブは、金属の弾性(たわみ)を歯車に応用することで精密な位置決めを可能とする小型軽量の特殊歯車装置であり、協働ロボットの関節部分など、高精度で小型の領域ではHDSIとHDAGが業界をリードしている状況だった。
もともとは、ハーモニックドライブの基礎技術は米国で生まれ、日本とドイツに合弁会社という形で展開された。HDSIとHDAGももともとは同じ根を持つ企業だったが、米国、ドイツ、日本、それぞれの企業で資本体制が変わるなど、紆余曲折を経て、別運営の組織体となっていた。ただ、ドイツでHDGAの株式を保有しているオーナーが譲渡の意向を持っていたことから、既に数年前にHDSIが株式の36.8%を取得。同時に技術供与なども進めてきていた。今回さらにそれを進め、産業革新機構と共同で100%保有を実現できる状況にした。
HDSIの代表取締役社長の長井啓氏は「遊星型の精密減速機では当社は高いシェアを保有しており、特に小型で高精度が求められる協働型ロボットの関節部分にはほとんど当社のハーモニックドライブが採用されている。こうした技術力を守る意味でも、グローバルでの提案力を強化するためにも買収は必要な流れだった」と述べている。ただ、協働ロボットなどが広がる中でHDAGの市場価値なども高騰しており「1社での買収が難しかったため、今回は産業革新機構に協力を仰いだ」と述べている。
一方、産業革新機構にとっては「日本政府が強化を進めているロボットの基幹技術である点や協働ロボットなどで市場性がある点、さらに産業革新機構が進める『技術力ある中堅企業のグローバル化支援』という方向性にも一致している点から出資を決めた」と産業革新機構 専務取締役 濱邉哲也氏は語る。
産業用ロボットは、溶接、塗装、組み立てなどの製造プロセスで使用されている従来のロボットに加え、人との協働作業を可能とする「協働ロボット(Co-bot)」の市場が立ち上がりつつあり、製造プロセスの自動化が進む中で新たな需要が期待されている。また、先端医療機器分野などでのロボットの利用も拡大しており、精密減速装置の需要が拡大することが期待されている。
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