ファブレスメーカーのママさん設計者が、機械系モノづくりの“生”現場を渡り歩き、ありとあらゆる加工の世界を分かりやすく解説していく連載。今回紹介するのは、梱包製品や紙器を製造する中信紙工だ。同社は段ボールを使ったユニークな製品も販売している。
モノヅクリストの皆さん、こんにちは!
前回は「放電加工」について紹介しました。電圧を掛けて火花を起こし、その熱エネルギーを使った非接触式加工であるその仕組みや利点について、お分かりいただけたかと思います。
主だった加工方法としてこれまでに、マシニングセンタや旋盤による「切削」、レーザーによる「切り抜き」、タレットパンチによる「打ち抜き」、そして、「折り曲げ」「溶接」「放電」と紹介してきましたが、いずれにも長所と短所があって、部品設計の際には、「耐久性」「品質」「コスト」「納期」の要素を満たす、最適な加工方法を念頭に進めることが大事です。
「鉄板に穴を開ける」といっても、その穴の役割次第では寸法公差や幾何公差の指示が必要になりますから、「打ち抜きやレーザー加工でもいいのか。ドリル加工だけでいいのか、その後リーマ仕上げまでしなくてはいけないのか」を見極めることになります。加工方法が異なれば段取りの仕方も使用工具も異なり、加工時間と加工費に差が出てきますし、加工方法が決まっても、設備のスペックによって実現できる精度に限界があります。
それから表面処理(めっきや塗装)をするかしないか、するなら表面処理の種類と膜厚の検討と、その費用と時間も加味しなくてはいけません。設計した部品が与えられた予算と納期に収まるように工夫しながら、要求品質と加工方法のマッチングセンスを磨くのは、設計者の努めの1つといえますね。
このように、セットメーカーが知恵を絞って製品開発と部品設計をし、部品加工の依頼を請けた数多くの加工メーカーの尽力があって、家電や自動車などの工業製品が生まれるのですが、その生産から一般消費者の購買までのプロセスで頻繁に登場するのが、「物流」です。
その中でも特に不可欠な存在が、箱や緩衝材などの「梱包資材」です。頑張って加工や組み立てを終え、検査に合格した部品や製品は、そのままの状態で相手先に到着しなければ納品は完了しません。加工に必要な材料や工具、器具も同様で、品物を保護して輸送するのは当然のことで、輸送中の箱の中で個々の品物が接触して損傷し合うことがないような工夫も、品質保持には欠かせないものです。
ファブレスメーカーである筆者も、毎回の梱包には細心の注意をはらい、お札のようにこんなラベルを貼っては到着までの無事を祈って製品を見送る毎日なのです。
「これなくして工業製品の品質保証は達成できない」といえるほど、重要な役割を担う、梱包資材の活躍の場はとてつもなく幅広いものです。モノづくりの世界では、梱包資材とそのメーカーは、やや裏方的な存在として認識されてきました。ところが、最近では梱包製品メーカーでも3D CADの導入が進みつつあり、梱包資材の特長とこれまでの製造技術を生かして、ユニークなモノづくりを始めているといううわさも聞きます。
その1つが、長野県塩尻市の中信紙工の取り組みです。
今回は、機械系製造業を影で支える梱包製品・紙器製造業の現場におじゃまして、先端の設計技術と既存の製造技術が織りなす、独自のモノづくりの世界を取材してまいりました。
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