社会的な課題は、データ協調型社会の必要性であり、データの囲い込みから共有への仕組み作りが求められている。そこではセキュリティがより重要となり、新しい暗号技術の開発も必要だ。それとともに標準化への取り組みも大切で、モノづくりの分野では日本のIoT推進コンソーシアムなどの活動が始まっている。さらに国際連携の動きも加速してきた※)。
※)関連記事:日本を第4次産業革命の中心地へ、設立1年となるIoT推進コンソーシアムの現在地
経済面でIoTを見ると市場規模は2020年には1.4兆ドルを超えるといわれ、その経済価値は大きな成長が見込まれている。「IoT活用には3つの段階があり、最初は『基本プロセスの合理化』、次には『IoTを使った新しいサービスの創造』、そして『サプライチェーンや交通網など広範囲な最適化』へとつながる。活用のレベルが上がるほど生まれる価値も高まる」と山本氏は述べている。
さらに、山本氏によると、現在のIoTの活用レベルはまだまだ第1段階であるという。「省力化を目指した利用が多く、その領域では成果が生まれている。しかし、第2段階へのステップは進んでない状況だ。例えば、家庭の使用電力の最適化ができるサービスは、家庭にとっては節約になるが、電力事業者などにとっては、売り上げの減少となる。このように、企業が新しいビジネスを展開しても、それが必ずしも収益につながらない、という実態がみられる」と山本氏は語る。
山本氏は「社会全体として、IoTの活用が進んでいくには、このような壁を乗り越えて、投資がリターンにつながる好循環モデルを作る必要がある」と指摘し、その問題の解決策のひとつとして、「消費者と企業という1対1の関係ではなく、複数のプレーヤーを巻き込んだビジネスモデルを創る必要がある」と提言する。
その事例の一つとして、シンガポールでの公共交通の混雑回避と、ショッピングモールの利用促進の取り組みを紹介した。スポーツイベントの終了後は最寄りの駅に大勢の人が殺到する。そこで、スマートフォンのアプリを使って帰宅時間を分散させるためのインセンティブを提供している。具体的には30分遅い電車に乗るのであればドリンクのチケットを提供するなどの近くの商業施設の優待サービスを用いるものだ。IoTの実現に向けては課題も多いが、このように実例も出てきている。
日本経済の発展に向けてIoTは大きな役割を担うことが期待されている。世界的に都市化、長寿命化、グローバル化が進んでおり、日本では特に超高齢化への対応が大きな課題となる。IoTにはこうした社会の課題を解決し、さらにそれをチャンスに変える力がある。山本氏は「長寿命、インフラ整備の充実、高い教育レベルという特徴がある日本はその恩恵を日本は最も受けられる位置にある」とし、今後、電子情報産業をはじめ観光産業、輸送機械、産業機械など各産業がIoTの活用で大きく伸びることを見込んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.