東京大学は、クマムシ固有の新しいタンパク質が、放射線を浴びた際にクマムシのDNAを保護する働きを持つことを発見した。また、このタンパク質をヒト培養細胞に導入しても放射線耐性を付与できることが分かった。
東京大学は2016年9月21日、クマムシ固有の新しいタンパク質が、放射線を浴びた際にクマムシのDNAを保護する働きを持つことを発見したと発表した。また、このタンパク質を導入したヒト培養細胞のDNAも、致命的な放射線ダメージから守ることができた。同大学大学院理学系研究科の橋本拓磨特任研究員らの研究グループが、慶應義塾大学先端生命科学研究所の堀川大樹特任講師ら、国立遺伝学研究所などと共同で行ったもので、成果は同日、「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
クマムシは、さまざまな極限環境に耐性を示す、1mm未満の小さな動物だ。ヒトの半致死量の約1000倍(4000Gy)もの強い放射線を浴びても生き残ることができる。同研究グループは、クマムシの中でも特に耐性が高いヨコヅナクマムシに注目し、そのゲノム配列を高い精度で決定した。その結果、クマムシに固有な遺伝子を多数発見した。
さらに、DNAと複合体を形成するタンパク質群を調べたところ、そのうちの1つに、他の生物には見られない新しいタンパク質を発見。Dsupと名付けられた、この新規タンパク質をヒト培養細胞に導入し、放射線の1種であるX線を照射した結果、Dsup未導入細胞に比べて、DNAの切断量が約半分に低下していた。つまり、放射線耐性が向上していた。しかもこれは、DNA切断自体の減少によるものであり、切断されたDNAが修復されたためではないことも分かった。Dsup(Damage Suppressor:ダメージを抑制するもの)の名前は、このような性質を由来としている。
また、Dsup導入細胞に、増殖能を失うほどの線量のX線(4Gy)を照射しても、一部の細胞が正常な形態を保ち、増殖能力が維持されていた。
この研究で、これまで分かっていなかった、クマムシが極限状態でも生きていける理由の一部が解明された。極限環境耐性をもつ動物の遺伝子を用いることで、他の動物の細胞に放射線耐性を付与した初めての例でもある。今回の研究では多数のクマムシ固有遺伝子が見いだされており、今後、クマムシの優れた耐性能力の解明や、他の動物にさまざまな耐性能力を付与する新規技術の開拓にもつながることが期待されるという。
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