TRONで知られる東京大学教授の坂村健氏は、「IoTが社会を変えられるかどうかの鍵はオープン性にあるが、同時に“適切な利用”を行うための高度な判断が求められる」と述べる。
国内最大規模の組み込み技術の祭典「組込み総合技術展 Embedded Technology 2015(ET2015)」が今回、IoT総合技術展「IoT Technology 2015」を併催したことからも分かるよう、組み込みシステムにおいてもIoTは大きな存在感を発揮している。ただ、可能性については多く言及されるものの、事例は決して多いと言えず、“IoTの代表例”はまだ現れていない。
日本のおける組み込みシステムの第一人者といえる、坂村健氏(東京大学大学院 情報学環教授 工学博士)は「IoTイニシアティブ2015」にて行われた「オープンIoT(Internet of Things)の時代」と題した講演にて、「IoTが社会を変えられるかどうかの鍵はオープン性にあるが、同時に“適切な利用”を行うための高度な管理が求められる」と述べた。
坂村氏はインターネットがここまで社会に浸透した理由を「誰でも使える、何にでも使える」オープン性にあるとし、どれだけ可用性や将来性があっても、一団体、一法人が管理運用するクローズドなものでは大きな普及は見込めないだろうという。
トヨタの「カンバン方式」(ジャスト・イン・タイム)と「Industry4.0」、双方とも生産において柔軟性を重視し、“必要なものを、必要なときに、必要なだけ”生産することを目的とするが、坂村氏に言わせれば技術的に大きな差は無く、「カンバン方式はトヨタ系列だけが利用するクローズドなIoT、Industry4.0はオープンなIoT」だとする。
GEのIndustrial Internet向けソフトウェアプラットフォームである「Predix」を根幹とした団体「Industrial Internet Consortium」(IIC)は、センサーを使った稼働状況管理によって機械の効率化を図ることを大きな目的とするが、同趣旨の一部はコマツが機械稼働管理システム「KOMTRAX」として実現している。違いは前者がオープンな運用を目指しているのに対して、後者がコマツの機械だけが対応することだ。
坂村氏はIndustry4.0やIICを例にしながら、IoTの実現について「考え方や哲学を共有し、閉鎖的にならないことが重要」と述べる。しかし、オープンといっても無制限なオープンは単なる無秩序となる。そこで坂村氏は「誰でも参加でき、何にでも使える」ことを保持しながら、今後は「適切に使う」高度な管理が求められることになるだろうと予見した。
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