HILSとプラントモデル(その1)いまさら聞けないHILS入門(5)(2/3 ページ)

» 2016年09月28日 10時00分 公開
[高尾英次郎MONOist]

スロットルバルブアクチュエータの仕組みと物理モデル

 ECUのスロットルモーター駆動パルスによってスロットルバルブが動く仕組みについて考えます。

 スロットルバルブアクチュエータには、直流ブラシ付きモーターが使われているものとします。モーター端子に電圧が加わると、モーターの電磁気的特性に応じて、回転子コイルに電流が流れてトルクが発生します。詳細は、モーターの解説書に譲りますが、ECU内部のHブリッジ回路の動作⇒モーター駆動回路の電流⇒回転子コイルと界磁間の磁力⇒回転子トルクの順に求めることができます。

 ここで、駆動パルス周波数が低い場合には、モータートルクの発生が間欠的になります。周波数が高い場合は、モーター電流は平滑化されて、駆動パルスのデューティー比に比例した、おおむね一定のトルクを発生するようになります。

 モータートルクは、アクチュエーターの機械的部分、すなわち減速ギアを介してスロットルバルブに伝わります。スロットルバルブには、吸気流による空気力が加わります(力の方向は、バルブ位置と吸気量により変化します)。また、モーター、ギア、バルブ、ポジションセンサーの各部の摩擦力が発生します。モータートルクは、これらの力に打ち勝ってスロットルバルブを回そうとします。全部品の回転部分の慣性モーメントに対して回転加速度を発生し、回転速度となってバルブ開度が変化します。

 この過程を数式モデルとすることにより、アクチュエーターとスロットルバルブの物理モデルを作ることが出来ます。

図3 図3 スロットルバルブの仕組みと物理モデルのイメージ(クリックで拡大)

インジェクターの仕組みと物理モデル

 ECUのインジェクター駆動パルスが、インジェクターを動かして噴射が行われる仕組みについて考えます。

 インジェクターには、燃料供給ポンプによって低圧の燃料が供給されています。ECUの出力トランジスタがオフの間は、インジェクターのニードルバルブは、スプリング力と燃料圧力によりバルブシートに押し付けられており、燃料は流れません。

 出力トランジスタがオンになると、ソレノイドに電流が流れて磁力を発生します。ソレノイドの磁力は、ニードルバルブ上部のコアを引きつけ、スプリング力と燃料圧力に打ち勝ってニードルバルブを開きます。燃料は、バルブシートから噴口を経て噴射されます。

 この過程を数式化してインジェクターの物理モデルを作ることが出来ます。

図4 図4 インジェクターの仕組みと物理モデルのイメージ(クリックで拡大) 参考資料:自動車工学[第2版](自動車工学編集委員会編著)東京電機大学出版局 P31 図2.24 インジェクタ

イグニッションの仕組みと物理モデル

 図5は、ECUのイグニッション駆動パルスによってイグナイターが高電圧を発生して、イグニッションプラグが放電する仕組を示します。

 ECUのパルス出力(①)が一定時間オンになることにより、イグナイター内部の1次コイルに通電され、コイルの電流が十分に増加します(②−1)。パルス出力がオフになると1次コイルの電流が遮断されて、自己誘導作用により1次コイルに数百Vの高電圧が発生します(②−2)。磁気回路と磁束を共有している2次コイルは、イグニッションプラグを放電させるのに十分な、数十kVの放電開始電圧を発生します(③−1)。放電は、イグニッション駆動パルスのオフ時期とほとんど同時に始まります。

 イグニッションプラグの放電特性は、放電時期、放電期間、放電電圧・電流などによって特性付けられます。それらのうち、混合気の燃焼と温度圧力変化に影響を与えるのは、放電時期が主となります。これに対して放電期間や放電電流の影響は少ないので、ほとんどのエンジンモデルは、放電期間や放電電流を無視して、放電時期だけを使用します。本HILSでは、放電時期=イグニッション駆動パルスオフ時期として取り扱い、特別なモデルをもたないこととします。

図5 図5 イグナイターとイグニッションプラグの仕組み(クリックで拡大) 参考資料:デンソー テクニカルレビュー Vol.11 No.1 2006 点火装置の革新的技術(青山雅彦、佐藤真弘)

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