宇宙空間で自壊するという大事故を起こしたX線天文衛星「ひとみ」。直接的な原因は打ち上げ後に連続して起こった小さなミスだが、根本的な原因はJAXAという組織が内包する性質にある。
前回までで、X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)に起きた事故については一通り説明できた。だが、なぜこのような大事故が起きたのか、なぜ未然に防ぐことができなかったのかについては疑問が残る。そこで、今回の後編では、事故の背後要因を見ていき、今後の対策について考えることにしたい。
・人工衛星「ひとみ」はなぜ失われたのか(中編):いくつもあった運命の分岐点
・「ひとみ」はなぜ失われたのか(前編) 衛星を崩壊に導いた3つのプロセス
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2016年6月14日、ひとみ事故に関する調査報告書を公表。その中で、今後の具体的な対策として、以下の4項目からなる組織改革案を示した。
(1)ISASプロジェクトマネジメント体制の見直し
(2)ISASと企業との役割・責任分担の見直し
(3)ISASプロジェクト業務の文書化と品質記録の徹底
(4)ISAS審査/独立評価の運用の見直し
前編と中編で見てきたように、事故後の検証で明らかになったのは、ひとみは性能を追求し、観測を優先する一方で、安全性・信頼性に対する意識が不足していたことだ。この背景として問題視されたのは、PM(Project Manager)とPI(Principal Investigator)の役割が分かれていなかったプロジェクトの管理体制である。
PMはプロジェクトを統括する立場。スケジュールや予算を適切に管理し、リスクに対応しながら、プロジェクトを確実に遂行していく責任がある。工学にも明るく、幅広い視野を持つことが望まれるだろう。一方でPIは研究者側の代表である。科学コミュニティーからの要望をまとめ、最大限の成果を得られるように努める。
PIからの要望であっても、リスクが大きいと判断すれば、PMはそれを止めなければならない。だが、PIがPMも兼ねていれば、どうしても判断がサイエンス寄りになってしまうだろう。今後は、ブレーキとなれるよう、PMとPIを明確に区別、別々の人物が担当する。なおPMについては専任を前提とし、他の業務との兼任は避ける。これが上記の対策(1)だ。
ひとみを開発した宇宙科学研究所(ISAS)の衛星や探査機では、理学または工学の研究者がPMに就くことが一般的だ。しかしPMとしての業務そのものは、研究者としての業績にはなりにくい。今後も研究者がPMを担っていくのか、それとも“プロジェクトマネジメントの専門家”のような人材を育成するのか、PMのキャリアパスまで含めて検討する必要があるだろう。
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