VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

「VR=仮想現実感」は誤訳!? VRの定義、「製造業VR」の現状と課題製造業VR開発最前線(前編)(2/3 ページ)

» 2016年08月30日 10時00分 公開

ゲーム用VR HMDの登場

 2013年にゲーム用VR HMDとして「Oculus Rift」の初期バージョンが登場しました。現在はOculus Riftのより高解像度なバージョンと、「HTC Vive」という別のHMDが登場しています。

 ゲーム用VR HMDの特徴は、いずれも10万円前後と安価であることです。これは光学系が従来のHMDに比べて極めて単純になっており、それによってレンズで発生する画像のゆがみはCGのレンダリング技術によって補正する構成になっています。またこのために、高価な光学系を使った上で画像がゆがまない範囲に視野角を抑えている従来のHMDに比べて非常に広い視野角を実現しています。また、従来の高価なモーションキャプチャーよりずっと簡素な仕組みで、HMDの位置検出機能を標準装備しています。

 また、ゲーム用VR HMDの特徴のもう1つは、従来のディスプレイの標準より早いフレームレート(例えば75FPS、90FPS)で、頭の動きに滑らかに追従することです。逆に、視野のほとんどを覆っている広視野角の映像でフレームレートが不足すると、非常に大きい違和感を覚え、最悪の場合は乗り物酔いのように気分が悪くなります。

 従来の高価な製造業VRシステムはMREALのようにビデオシースルーで外界の映像を一緒に合成表示したり、壁一面の大きなプロジェクタ画面の一部を3Dテレビ用のものと似た偏光フィルターや液晶シャッター方式の3Dメガネで見る方式のため、広視野を覆うVR HMDと同じ原因での3D酔いは起こりにくく、フレームレートはそれほど重視されていないため、新世代のゲーム用VR HMDの映像を見慣れた目で見るとずいぶん見劣りがします。

ゲーム用VR HMDを使う製造業VRシステム

 従来の高価なモーションキャプチャーとHMDではなく、安価なゲーム用VR HMDを使って製造業VRシステムを実現するために、プロノハーツとアップフロンティアで共同開発に取り組んでいます。

 従来の製造業VRシステムはフレームレートを重視しなかったため、形状が複雑な場面では20FPS(Frame Per Second=毎秒フレーム数)程度に低下してしまっていましたが、どのシステムでもそれが当然のものとされていました。

 広視野角のゲーム用VR HMDでフレームレート低下を起こすと、激しい3D酔いにつながるため、表示用ポリゴンの適切な軽量化が非常に重要となります。われわれが開発する製造業VRシステム「pronoDR」では、STEPやParasolidなどの3D CAD中間形式ファイルから、軽量化を行った表示用データを短時間で自動生成する仕組みを実現しています。それによって、持ち歩きできる範囲の4kgほどの大型ノートPCでのVRシステムを実現しています。

 プロノハーツでもこのシステムをお客さまのところに持込み、当日初めて見るCADデータを1時間以内にVR化して表示する、というデモに既に何度も成功しています。これまでの製造業VRシステムでは難しかった、客先に持ち込んでCADデータをVRで見せるといった営業ツールとしての活用が可能だと考えています。もちろんデスクトップPCで動かした場合なら、もっと表示は速くなります。

 現在開発中の新バージョンでは、「HTC Vive」のハンドコントローラーへの対応を実現する予定で、「Oculus Touch」も発売が開始され次第対応する予定です。2016年6月に東京ビッグサイトで開催された「第24回 バーチャルリアリティ展(IVR)」で展示した3万部品規模の巨大データのVR表示機能の汎用化も進めている状況です。

開発中のHTC Vive対応版pronoDRの画面

pronoDR体験の様子

HTC Vive対応pronoDRのシステム一式

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