VR/ARが描くモノづくりのミライ 特集

「VR=仮想現実感」は誤訳!? VRの定義、「製造業VR」の現状と課題製造業VR開発最前線(前編)(3/3 ページ)

» 2016年08月30日 10時00分 公開
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現状のゲーム用VR HMDを使う製造業VRシステムの課題

 2016年6月のIVRでpronoDRを展示した際、「部品1つ1つを動かしたい」「任意断面を見たい」「止まっている状態を見られても意味がない、アニメーション表示が必要」など、いろいろな意見を来場者の皆さまからいただきました。ゲーム用VR HMDによる低価格の製造業VRシステムという分野そのものが2014年に登場した「Oculus Rift DK2」によって初めて誕生したものであり、まだまだ発展途上です。

 アニメーション表示という意味ではCADのアニメーションではないのですが、CAE解析結果のアニメーション表示を実現した「EnSight VR」というシステムがあります。こちらは従来、VR非対応のCADソフトウェアを強制的にCAVE、CABINなどのプロジェクター投影型VRシステムに対応させるために使われていたDLLインジェクション(平面ディスプレイ向けの3D空間描画データをライブラリから横取りし、VR空間の描画に用いる)という手法を使って、本来はOpenGLで平面ディスプレイに描画される3D空間を強制的にVR化するものです。EnSight VRはEnSightシリーズの最上位グレードで、サイバネットシステムでの公開価格は396万円となっており、pronoDRの基本価格158万円と比べるとミッドレンジCADとハイエンドCADほどの価格差があり、別クラスの製品といえるでしょう。

 つまり、ユーザーの求める低価格と、部品1つ1つの移動、CADのアニメーション表示など、ユーザーが期待する一通りの機能を両立する製造業VRシステムはまだ存在しません。当社を含む各社のシステムが発展途上であるという課題と、3D CADのアニメーションデータを出力するオープンな汎用中間形式がなく、各CAD独自の専用形式でしかアニメーションデータを保存できない状況であるという問題があります。特にCADアニメーション保存の汎用ファイル形式は、これまでそのような需要が存在せず、製造業VRシステムがいくつか登場して初めてユーザーサイドからその必要の声が出てきたという状態です。汎用的なCADアニメーションファイル形式が登場するには、もうしばらく時間がかかると考えられます。

PTC、Autodeskなど3D CADメーカー自体のVR、ARへの取り組みのトレンド

 PTCはVRだけでなく、高性能スマートフォンによるARにも力を入れています。また最近発表された「Vuforia 6」ではMicrosoftの「HoloLens」にも対応しています。

 オートデスクも「Autodesk VRED Professional」にVR HMD対応機能を搭載しました。Autodesk VREDは計算負荷の大きいリアルな物理ベースレンダリングシステムで、そのシステム上のVRであるため、現状は軽快な表示には程遠いですが、いずれハード性能が追い付けば、CADで設計している3Dモデルを実物と見間違えるようなリアルさでVRで見ることも可能になるでしょう

Microsoft HoloLens

今後の展望

 この記事を執筆している最中にも、次々と新しいVR HMDの情報が登場しています。今後のトレンドはHMDとPCの一体化によるケーブルレス化で、今後はCADからVRの変換にはハイエンドノートPCやデスクトップPCを必要としても、製造業VRの閲覧そのものはケーブルレスのHMDで行えるようになるでしょう。

 また、HoloLensの登場で、自分の手や外界と3Dデータの相互作用を伴うMRが急速に具体化してきており、「Sulon Q」や「Intel Project Alloy」など、対抗ソリューションも次々発表されています。これらの製造業VRでの利用も遠くないうちに始まるでしょう。


 後編では、製造業VRならではの難しさや、製造業VR用のPCに必要な性能など、実際の導入を検討するにあたっての具体的な事項、さらには見るだけでなく、目の前に見えている3Dを操作できるようになっていく製造業VRの今後の具体的な発展、製造業でのゲームエンジンの利用によるVR開発の広がりについて言及していきます。

Profile

早稲田 治慶(わせだ はるみち)

長野県岡谷市在住の3D設計者。日本で恐らく唯一の製造業VRエヴァンジェリスト。ローランド ディー.ジー.株式会社にて3D CADでの小型CNC切削加工機設計、CAM開発プログラミング、加工機の補正システム開発などの勤務経験を経て、2012年に株式会社プロノハーツに入社。ニコニコ超会議に出展した「ミクミク握手」、産業用3Dプリンタ、「いいね玉」の開発などの後、製造業VRシステムpronoDRのプロトタイプを開発。その後も製造業VRの新技術開発に従事し、CAM講習講師、鳥取県CMXプロジェクトでハイブリッド金属 3D プリンタLUMEXの運用を担った経歴も持つ。さまざまな方式の3Dスキャン技術にも通じ、吉本興業所属タレントのYouTubeチャンネル企画にも3Dスキャンで協力している



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