UI/UXの洗練が進むWebやモバイルアプリの業界と比べて、ロボットのデザインについては各社手探りなのが現状だと思う。ただ、本稿で述べてきたように学術的なHRI研究の積み重ねは存在している。Willow Garageでその一般化と応用を担ってきた3人のデザイナーたちは、新たなロボットスタートアップの現場でノウハウを生かして、日常生活の中に飛び出してきたロボットが人とうまく関係性を築き、世の中に受け入れられていくための創意工夫を重ねている。
Willow Garage出身の3人のデザイナーの仕事から、サービスロボットに共通するデザインルールとして以下の共通点が見いだせる。
しかし、Dautenhahn氏が述べていたように、それぞれのロボットが置かれる環境やユーザーとの関わり方、ロボットが求められる役割や機能はさまざまであり、製品化に向けては固有の課題をクリアしていかなければならないことも事実だろう。HRIの研究に携わってきた経験豊富なロボットデザイナーといえども、初めは間違い、数多くのプロトタイピング、ユーザーテストを経て、現在のデザインに行き着いている(それでも彼らはまだβ版だと言うだろう)。
先駆者である彼らにサービスロボット時代のインタラクションデザインの秘訣について尋ねてみたところ、口をそろえて「とにかくカスタマーと話せ。試してみて人の反応を観察しろ。決してロボットファーストになってはいけない。カスタマーファーストを貫け。」とアドバイスをしてくれた。
日本で知名度の高いヒューマノイド型コミュニケーションロボットの「Pepper」やホビーロボットの「RoBoHoN」のような「ロボットファースト」のデザインと比べると、Willow Garage出身者が手掛ける業務特化型ロボットのデザインは少し物足りないかもしれない。確かに、「ロボットファースト」デザインのほうがロボット的な外観となって耳目を集め、結果的に社会に定着していくというシナリオもあるのかもしれない。
一方で、プロダクトやサービスが真に社会に受け入れられていくとき、そのプロダクトやサービスを意味する言葉はユーザーに意識されなくなり、やがては消えていくといわれている。
ロボットが脅威論に打ち勝ち、人にとってかけがえないパートナーとして社会に受け容れられる未来を描くとき、そこに至るシナリオは「“カスタマーファースト”デザインで人と社会への理解を深め、インタラクションの作り込みによって人と社会にロボットが溶け込んでいく、ロボットがロボットとして意識されなくなっていく」というものではないだろうか。
筆者紹介
京都大学大学院工学研究科を修了。ヒューマンインタフェース設計、自動運転システム開発に携わる。その後、戦略コンサルティング会社のアーサー・D・リトルに参画し、主に自動車、機械、電機、化学の分野で新規事業開発、事業・イノベーション戦略策定、M&A支援などを行う。2015年に渡米し、現在はサンフランシスコの起業家・エンジニア育成プログラムに参加する傍ら、ロボットスタートアップの立ち上げに従事。Silicon Valley Roboticsメンバー。@kazookmtでベイエリアの情報を発信。
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