サービスロボットの機能による差別化が難しくなれば、次に浮上するのが人とロボットがどんな「関係性」を持てるかというインタラクションデザインだ。前編では、人とロボットの関係性「Human-Robot Interaction(HRI)」の重要性と、これまでの研究を振り返る。
「ロボットの“PARC”「Willow Garage」が撒いた種」の中で、Willow Garageのロボットソフトウェアのオープン化活動に対するiRobot Colin Angle氏による批判について触れた。彼の懸念の通り、ルンバのような業務特化型サービスロボットのビジネスにおいて、技術による差別化は既に難しくなりつつある。
ただ、汎用ロボットであるPR2を作り、地味な研究も積み重ねてきたWillow GarageはROSとして公開した部分以外にも、独自のノウハウを確立しており、それがWillow Garage出身スタートアップの競争力につながっているのではないかと思う。そのノウハウの1つが人とロボットと人間の関係性、すなわち「Human-Robot Interaction(ヒューマンロボットインタラクション)」のデザインだ(以下、HRI)。
今回は、HRIの研究とWillow GarageがHRIに与えた影響、そして元Willow GarageのHRIチームデザイナーとして独自のデザインノウハウを受け継いだ3人のロボットデザイナーと、彼らが働く3社のスタートアップのロボットについて見ていきたい。
前編では、昨今のロボット脅威論を皮切りに、HRIの重要性とこれまでの研究について確認していこう。
ここ半年ほど、ロボット脅威論が後を絶たない。2016年2月にBoston Dynamicsの人間型ロボット「Atlas」の最新動画が公開された。後ろから突き飛ばされても立ち上がり、雪道などの悪路でもちゃんと歩き、あるいは箱を持ち上げることができるロボットの様子に対し、多くの人が驚きと恐れを感じたことだろう。
また、2016年6月に起こったダラス銃撃事件の際には、車庫に立てこもった容疑者のそばに警察がロボットを使って爆弾を仕掛け、容疑者の1人を爆殺するという、前代未聞の対応がなされた。この対応についてはシリコンバレーのロボットコミュニティーの間でも議論になり、AP通信などのメディアの記者からは、製造元のメーカーについてや、技術的な内容についての解説が求められるということがあった(なお、CNNの報道によればNorthrop Grummanの「Remotec Androx Mark V A-1」というロボットではないか、という話だ)。
最近ではパロアルトのスタンフォードショッピングセンターでKnightscopeの「K5」というパトロールロボットが1歳4カ月の男児と接触事故を起こし、軽症を負わせるという事件があった。男児の母親はロボットが突然現れ、ぶつかった後も男児の足の上に乗り上げたと話す一方で、Knightscope側は男児がロボットに向かって走り出し、衝突後は停止したと述べており、供述は食い違っている。しかしながら、多くのメディアは、ロボットはいまだ信頼が置けず、人間の安全を脅かす可能性があるといったメッセージを報道していた。
こうした脅威論を乗り越え、ロボットが社会的に受け入れられ、日常生活で人に寄り添う存在となるために、ロボットはどのように振る舞うべきなのだろうか。
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