マニュアルとは、各部門の知的成果の集積であるとともに市場接点でもある。しかしマニュアルづくりは、部門間でのドキュメントの“バケツリレー”と、属人的なすり合わせで行われているのが現状だ。連載第2回では、そういった現状から脱却するための「ダイナミック・ドキュメンテーション」について紹介する。
製造業に限らないが、マニュアルというのはその企業の知的成果を集積した市場接点である。従って、各部門からの知的成果が早く、正しくマニュアルに集積されることが企業の競争力につながる。しかしこれは、部門間でのドキュメントの“バケツリレー”と、属人的なすり合わせでなんとか行われているのが現状である。
連載の第2回では、組織的な知的成果、すなわち企業ナレッジをマニュアルに集積するためのシステマチックなドキュメンテーションの在り方と方法論を紹介する。これはDITA(Darwin Information Typing Architecture)をベースにした制作技術によって実現可能であり、マニュアルの品質と制作効率を同時にアップさせることが期待できる。
企業活動はジクソーパズルを皆で完成させていくようなものである。ビジネス全体の絵柄を定義し、その盤面に各部門からの知的成果(以降「部門ナレッジ」)をピースのように組み込んでいくのだ。ジクソーパズルを少しでも速く完成するには、各部門が同時並行で自分のピースをはめていくことが必要である。このコンカレント性こそが企業の競争力につながる。
マニュアルもそうしたジクソーパズルの1つだ。これを構成するピースは製品開発部門からの機能仕様や形状仕様はもちろんのこと、製造部門からの部材情報、品質保証部門からの安全警告情報、知財部門からの著作権情報、法務部門からの輸出先規制情報など、極めて多岐にわたる。これらのピースがもれなくはめ込まれてマニュアルは市場にリリースされる。まさにマニュアルは部門ナレッジの総体といえる。
部門ナレッジはどうやってマニュアルへ受け渡されているのだろう。ほとんどの企業では「ドキュメント」を媒介にして行われている。部門ナレッジは商品企画、開発、製造を担う川上部門から、マニュアル制作、広告宣伝、販売、ユーザーサポートを担う川下部門へドキュメントをバケツリレーしながら流れていく。
そしてドキュメントは部門を越境する度にデータ形式が変わる。利用するソフトウェア製品が各部門で異なるからである。例えば、開発部門はMicrosoftの「Word」や「Excel」で設計書や仕様書を作成するが、これらを基にマニュアル制作部門はAdobeの「FrameMaker」「InDesign」といったDTPソフトを使って、人手でマニュアルコンテンツを作る。
出来上がったマニュアルは開発部門などのチェックを受けるためにDTPからPDF形式に変換されて渡される。開発部門ではDTPソフトを使わないからだ。チェック後、PDFに付されたレビューコメントを基に、DTPソフトの内容を人手で修正する。完成したマニュアルは、またPDFに変換されて広告宣伝部門に渡される。この部門ではマニュアルPDFの必要箇所をCMS製品にコピーペーストしながらWebサイトのHTMLを人手で作っていく。こうしたプロセスは翻訳言語数に応じて倍増することになる。
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