同カンファレンスの初日は自動車メーカーと経済産業省が登壇した。そのなかで、トヨタ自動車の「先進安全先行開発」についての説明がとても分かりやすかった。
同社の歴史を辿ると、1980年代には「クラウン」にCCDカメラとレーザースキャナを搭載し、油圧式パワーステアリングを動かすシステムを開発した。1990年代にはインフラ利用システムへと移行し、2000年代に入ると自律型システムの「ロボットカー」を開発した。
現状、同社の先進安全先行開発は、自動運転とリスク回避支援の二本立てで行っており、理念として「ファン トゥ ドライブとの共存」を掲げている。つまり、「全ての人に移動の自由を提供」「ドライバーが運転するときには運転を楽しめる」「運転したくないときはクルマに任せる」という、人とクルマの協調だ。
こうした技術開発が可能となった背景には、技術におけるさまざまなブレークスルーがあったからだと説明。レーザーやカメラなどのセンサー技術の向上や、GPUやFPGAなどハードウェアの処理能力の進化、そしてソフトウェア分野では機械学習の研究開発が進んでいる。
今後の課題として、トヨタ自動車 先進安全先行開発部 部長の鯉渕健氏は以下の4つを挙げた。
この中でも、社会環境づくりが最も重要であるとし、自動運転のメリットとデメリットはコミュニティーの中で詳細な議論が必要だと指摘した。
前述した課題に関連して、注目すべき各種数値が示された。
例えば、位置情報の精度では、GPSなどGNSSのみを使った場合には自車から50m、これにジャイロセンサーを加えると30m、加えて最新ソフトウェアを搭載すると10mに精度が上がる。さらに高精度3次元地図を使うと、自車から横方向に0.1m、前後方向に0.5mまでに精度が向上すると説明した
高精度3次元地図は2020年までに自動車専用道での普及が進むと予測されるが、一般道では測量のコストが見合わないため、地図を自動生成する必要性を感じるという。この発言は、General Motors(GM)が画像認識技術を開発するイスラエルのMobileye(モービルアイ)と連携し、GMのテレマティクス機能「オンスター」を使って、走行中の画像を少ないデータ容量で収集して地図を生成する技術を連想させる。
こうした技術領域の話に加えて、実社会における自動運転のインパクトについても紹介した。例えば、運転中に体調不良となった場合の運転のバックアップ、新規ビジネス、パーソナル公共機関、トラックの隊列走行、カーシェアでの利便性向上などが挙がった。その上で、自動運転車から得られるビッグデータビジネスにおいて、モビリティを大きく変える可能性を秘めていると説明した。
トヨタ自動車の講演後、日産自動車や経済産業省、さらにロボットタクシーも参加したパネルディスカッションが行われた。そのなかで、興味深かったのが、トヨタ自動車や日産自動車の技術的な視点と、ロボットタクシーによる事業的な視点との対比だ。
ロボットタクシーはZMPの技術を活用しているが、あくまでも事業の中核をサービス業として捉え、実社会における需要を「いつまでに、どの程度、誰の責任で行うのか」を明確にしようとしている。
これに対して、自動車メーカーは、死亡事故ゼロや、CO2削減、交通渋滞の緩和といった大義名分ありきの印象が強く、実際のビジネスと技術開発がどのようにリンクしていくのが分かりにくい。
こうした状況について、経済産業省のスタンスは、今後の日本社会の急激な変化に対応するには、自動運転の技術ができてからの法整備では遅いとの認識を示し、自動車メーカーと周辺サービス事業者のさらなる連携を促した。
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