デザイナーがやっていること
パッケージングという言葉は他の製品開発では聞き慣れないかもしれない。商品企画や構想がある程度進んでくると、クルマの開発ではパッケージング作業が始まる。
パッケージングとは、エンジンやトランスミッション、車種によっては駆動用モーターなど駆動系部品をどのように配置し、乗員のためにどのような空間を作っていくのかを決める工程だ。ここでデザイナーが関わるのは、空間作りの部分だ。
エクステリア担当のデザイナーが外観のイメージスケッチを描いている時、インテリア担当のデザイナーは、室内空間のイメージスケッチも描きつつ、実験・評価部門や設計部門と共同作業で人間の乗せ方を計画する。この段階でのインテリアデザイナーの仕事は、理詰めの作業が中心となる。一般の方が想像するデザイナー像とは少し異なるかもしれない。
パッケージングにデザイナーが大きく関わるのは、商品企画で定めたコンセプトによって、人間の乗せ方や空間の作り方で求めるカタチが変わってくるからである。例えば、人間工学に基づく操作環境、視界の広さやヘッドレストまでの高さ、法規制で定められた要件はもちろんのこと、「視点の高さによる感じ方」であるとか、空間そのものの「広さ感」を訴求すべきか、逆に「適度にタイトな包まれ感」が必要かといった心理的な要素もコンセプトへのマッチングに関連してくる。
実際にクルマに乗る人間はさまざまな身長や体形の人がいるが、パッケージングを計画する際に基準となる“人間”はメーカーごとにサイズが異なる訳ではない。基本的にはどの自動車メーカーでも3次元マネキンや2次元マネキンを使う。米国の自動車技術会(SAE)などで規格化されており、体格ごとに幾つかのサイズがある。
運転席は、「AM95/米国人男性の95パーセンタイル体」というものが使われることが多い。95パーセンタイル体というのは、米国人男性100人を体形が小さい順に並べた時に95番目の人の体形を指す。かなり大柄な男性でも乗れる設計とするためだ。
前回の記事でも書いたが、パッケージングが決まると、機器のレイアウトと人の乗せ方が決まるのでクルマの基本的なシルエットや素性は定まる。コンセプトが“提供する価値のメートル原器”であるとするならば、パッケージングは、ハードウェアのメートル原器のようなものだ。
量産のためのデザイン開発ではエクステリアもインテリアもパッケージングを中心に置き、スタイリングとパッケージングの間を行きつ戻りつしながら物理的にクルマとして作り上げ、各国の安全基準などの法規制もクリアしてようやく、ナンバーを付けて路上を走ることができるデザインへと熟成されていく。デザイン部門だけでなく設計や生産技術などさまざまな部門がすり合わせをしながら進んでいく。
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