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» 2016年06月29日 10時00分 公開

「含油軸受」が地球を救う!?――ポーライトオンリーワン技術×MONOist転職(1)(2/2 ページ)

[杉本恭子MONOist]
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光ディスク大容量化、高速化の立役者

 ポーライトは、創業者である菊池辰之介氏が特許を取得した銅の粉末を作る技術を活用するために、1952年に設立された。当時の社名「東京オイレスメタル工業」が示すとおり、そもそも無給油式の(oilless)軸受を製造するために立ち上げた会社なのである。「焼結」という製造方法は、複雑な形状のスクリューの製造などに戦前から使われており、また含油軸受は、昔はおがくずなどを固めて作られていたそうだ。それらの発想を組み合わせ、摺動性のある銅に油を含ませれば高性能の軸受ができると考え、大量生産を実現し世の中に広めた。

photo 含油工程

 1960年代にはカセットテープが登場し、1979年にはあの「ウォークマン」1号機が発売された時代。ニーズにマッチした同社の含油軸受は、全ての国内メーカーのカセットプレーヤーに採用された。その後、カセットからCDへ、DVD、Blu-rayと、アナログからデジタルへの流れの中で、同社が大きな役割を果たしてきたことは、光ディスクスピンドルモーターのシェアが物語っている。

 例えば「内径中逃げ軸受」の開発。通常は、ハウジングと含油軸受2つを組み合わせて使用するが、それらを一体化したのだ。まず部品点数が減ることで、取引先の組立工程が減り、故障も減る。また内径を大きくし、摩擦を回避したことで、小型化に加えて精度も向上し、軸の芯ずれは1ミクロン以下となった。この高精度の技術があったからこそ、光ディスクの大容量化、高速化が実現できたといっても過言ではない。

オンリーワンを培った企業文化

 同社の成長の背景には、創業以来受け継がれている企業文化がある。

photo 「社長からも『自由に考えて、オンリーワンを作れ』と言われている」(田邊氏)

 それは、技術的な厳しい要求に対して「できないと言わない」こと。仮にできないとしても、それに代わる提案、あるいはそれ以上の提案をすることを常に考える。素材はもちろん、潤滑油もオイルメーカーと共同開発し、ポーライトにしか作れない製品を生み出す。「ニーズをどれだけ先取りするか、シーズをどう産んでいくかを、常に考えている。社長からも『自由に考えて、オンリーワンを作れ』と言われている」と田邊氏。同社のオンリーワンの技術は、培われるべくして培われてきたのだ。

 しかし社員の中で、学生時代に含油軸受を専門に勉強した人はほとんどいない。開発しながら、あるいは営業と一緒にお客さまに提案しながら、含油軸受のプロ中のプロに育成されていく。田邊氏自身も「学生のころは含油軸受の仕組みなどは知らなかった。入社してから学び、面白さや、奥深さも知った」という。若い人材は、積極的に海外拠点に駐在させ、海外経験とコミュニケーション力を磨く機会を与える。オンリーワンを作るというモノづくりの面白さと、幅広い経験のチャンスがあり、やりがいを感じられる職場であることも、同社の好循環に寄与しているのだ。

 直近では、内径にミクロン大のディンプルを付与した新たな含油軸受を開発し、摩擦係数を40%低減することに成功した。ディンプル加工によって摩擦が低減することは知られていたが、小型モーターに使われる小径の軸受では大量に生産できなかった。同社は2.5ミリの内径にディンプル加工を施す技術を確立し、新たなオンリーワンを生み出したのだ。この技術は、第28回「中小企業優秀新技術・新製品賞」(りそな中小企業振興財団、日刊工業新聞社 共催)の優秀賞を受賞し、2015年10月から冷蔵庫のファンモーター向けに量産を開始している。

photo 軸受内径のディンプル加工
photo 高効率含油軸受製品

含油軸受の高性能化は地球を救う?

 現在光ディスクスピンドルモーターの需要がピークアウトする一方で、自動車を筆頭に電動化が進んでいる製品も多い。ロボットなどの新たな市場も間違いなく成長するだろう。同社が創業した当時は、これほどまでにモーターが使われる世界は想像できなかったかもしれないが「世界の電力使用量の半分はモーターと言われている。含油軸受の摩擦を減らすことは、省電力、つまりエコに直結する」と田邊氏。含油軸受は摩擦との戦いであり、地球を救う一助とも成り得るのだ。

 一方「焼結部品」という観点に立つと、素材が粉末であるために自由な形に加工しやすく、後加工も不要。削りカスもなく、材料を100%使えるという利点がある。また一般的な金属の塊と比較して表面積が多いのも特徴だ。現在はこの特徴を活用した、まったく新しい焼結部品も研究している。「次なるニーズは何か」「何がシーズと成り得るか」を常に考え、立ち止まらないポーライトは、今の時代、次の時代を支えるオンリーワンを生み出すに違いない。

 冷蔵庫やパワーウィンドウを見て、含油軸受を思い浮かべたことのある人はいないだろう。でも今日は、あなたの家の中で必ず仕事をしている小さな高性能部品「含油軸受」に、思いをはせてみてはいかがだろうか。


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筆者紹介

杉本恭子(すぎもと きょうこ)

東京都大田区出身。

短大で幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。


取材協力:マイナビ)

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