エリーパワーが開発した始動用バッテリーは、ホンダ・レーシングが出場する「モトクロス世界選手権MXGPクラス」「全日本モトクロス選手権IA-1クラス」の参戦車両に搭載されている。
「モトクロスでの採用は耐久試験の一環だと考えている。振動や衝撃が大きいモトクロスで通用すれば、どんな二輪でも対応できるからだ。実験の場所としてモトクロスのチャンスをもらった」(同氏)。ホンダとしても、モータースポーツに参戦する目的の1つに、レースの技術を市販製品にも展開していくことを挙げている。二輪車の量産モデルでリチウムイオン電池を採用する可能性も検討中だ。
2016年内に、神奈川県川崎市の同社工場内に設けた始動用バッテリーの生産ラインが稼働する。日本に限らず、欧米などの先進国の趣味性の高い二輪の試乗をターゲットとする。「われわれがこれから量産モデル向けに生産を始める始動用バッテリーは、やはり鉛電池と比較すると価格は高くなる。しかし、1台を乗り続ける間に何度もバッテリー交換が必要になる鉛電池と比較すると、トータルでは安くなるだろう」(同氏)と見込んでいる。
この実績を足掛かりに、電動バイクの駆動用バッテリーや、四輪向けなどへの展開を検討しているのか、河上氏に尋ねた。
「二輪の始動用バッテリーに参入したのは、安全性と性能を両立するハードルが高く、他社が簡単に追い付きにくいと考えたからだ。搭載する製品によって要求がことなるので、簡単に転用できるとは考えていない。例えば電動バイクの駆動用バッテリーであれば、始動用バッテリーのように取り外しせず、走行距離の長さが重視されるので安全性の優先度は下がるかもしれない。そうなればわれわれの強みが発揮しにくくなる」(同氏)。
また、二輪以外については「電動アシスト付き自転車など小型のバッテリーを使用する製品はあるが、二輪の始動用バッテリーとは性質が異なるので、違う設計が必要だ。四輪はバッテリー上がりが少なくなっているので始動用として参入することは考えていない」(同氏)と説明する。
リチウムイオン電池に対する安全性の重要度は今後どう変わっていくのか。エリーパワーが得意とする安全重視の方向に進んでいくのだろうか。
「これまでのリチウムイオン電池の事故は人が死んでいない。だからこそ、安全性よりも性能やコストの優先順位を高く設定できたのではないか。死亡事故が起きればメーカーや消費者の考え方が変わるだろう。われわれは安全性を最優先にする方針は変えずに、取り組んでいく」(同氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.