ホンダのモトクロス参戦車がリチウムイオン電池を始動用バッテリーにした理由エリーパワー 二輪車用リチウムイオン電池 インタビュー(2/4 ページ)

» 2016年06月27日 11時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

リチウムイオン電池ならバッテリーが上がらない

エリーパワーの河上清源氏 エリーパワーの河上清源氏

 始動用バッテリーを鉛電池からリチウムイオン電池に置き換えることで、人によっては毎年のように発生してしまうバッテリー上がりを防ぐことができる。

 リチウムイオン電池を用いた二輪の始動用バッテリーは、エリーパワーが世界で初めて手掛けたものではなく、海外の電池ベンチャー企業が既に市販製品として流通している。価格は1万5000円以上から高価なものでは4万円弱になるようだ。

 しかし、これら二輪の始動用バッテリーでもリチウムイオン電池特有の問題が発生している。エリーパワー 代表取締役専務の河上清源氏は「品質や安全性が保たれていないものがある。海外では発火事故や品質問題が起きた。粗悪品の中身を見ると、衝撃で発熱/発火してしまうタイプの構造の電池セルだったこともある」という。

 こうした状況が、エリーパワーとホンダが二輪用リチウムイオン電池で共同開発を始めるきっかけになった。「粗悪な電池に発火事故の責任があっても、ライダーは“二輪メーカーの車両が燃えた”と捉えるだろう。二輪メーカーとしても、安全な始動用リチウムイオン電池の使用を検討していく必要があったのではないか」(河上氏)。

ホンダが二輪用リチウムイオン電池に求めた条件

 リチウムイオン電池関連の事故は後を絶たない。製品評価技術基盤機構の調査では、2002年4月から2014年9月までに575件の事故が起きた。生産国を見ると、中国が過半数を占める一方で、日本製も3割を占めている。

 輸送用機器向けのリチウムイオン電池も例外ではない。四輪用リチウムイオン電池では、Tesla Motors(テスラ)の「モデルS」の発火事故が記憶に新しい。航空機でもボーイング787のリチウムイオン電池が発火事故を繰り返した。

 河上氏は「こうした事故が起きる理由は、電池メーカーの怠慢ばかりではない」と説明する。「電池セルに使用する電極材料や設計によっては、エネルギー密度や寿命を向上したりコストを下げたりできる半面、どうしても衝撃や加圧などに弱くなってしまう」(同氏)。

 現在量産されているリチウムイオン電池は、クギ刺しや圧壊、過充電などの耐久試験を行うと、いずれも発火したり有毒ガスが発生したりする。場合によっては激しく出火することもある。

クギ刺し圧壊 リチウムイオン電池で行われるクギ刺し(左)や圧壊(右)の試験の様子。即座に発火したり有毒ガスが発生するリチウムイオン電池が多い (クリックして拡大) 出典:エリーパワー

 そのため、電池メーカーや最終製品のメーカーは、バッテリー監視機能を搭載して電圧や温度を管理したり、モジュールを強固なケースに収めるといった対策をとって電池セルを保護し、最終製品としての安全性を確保している。

 それでも最終製品として完成した時に、電池メーカーが把握する限界を超えた組み立て方や使われ方をしてしまい、発火事故に至る例がある。

 ホンダはリチウムイオン電池そのものの安全性を重視した。二輪の始動用バッテリーは、取り外して室内で充電したり、四輪よりも短い周期で交換したりするため、ライダー本人が触れる場面が多いからだ。

 安全性に加えて、小型であることや低温でも始動できること、排気量1000ccのエンジンでも回せることなども、二輪の始動用バッテリーとして要求される性能だ。

 2014年5月にホンダから打診があり、エリーパワーで二輪向けリチウムイオン電池の開発がスタートした。

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