スパコンで解析をすることによって、これまで計算時間やハードのリソース面から諦めていたような内容にも取り組めるようになったという。計算結果がすぐ出るため、こうすればどうなるだろうといった探求心がわいたそうだ。実際に実物と物理現象の関係も分かり、インクジェットに対する理解が深まったという。
またスパコンの解析結果を利用していく中で、事業部でもシミュレーションが効果的な技術だと認識されるようになったという。解析の依頼もよく来るようになったそうだ。現象を可視化することにより、新製品設計へのアイデアにも結び付いているようだという。「以前から試作よりもCAEの方がよほど効率的だと言い続けてきましたが、どうしても試作が中心の状態から抜け切れていませんでした。やはり証拠を見せなければ信用してもらうことはできなかったということかもしれません」(島田氏)。
島田氏は「競合他社ではインクジェットの解析に90年代から取り組んでいたので、単純にいえば20年遅れていたといえます。ですが、スパコンの取り組みをきっかけに、対等に戦えるようになったのではないかという気がしています」と語る。「この間にソフトの性能が上がり、ハードも高速で安価になり、そして今回の取り組みがありました。これらが重なったおかげで、20年の遅れがカバーできたのではないかと思っています」(島田氏)。
渡辺氏らが強調していたのが、スパコンは同社が持つさまざまな技術要素のうちの1つにすぎないということだ。「スパコンを使うこと自体が目的なのではなく、スパコンを活用する前にも今回のように地道な積み重ねがある」と島田氏は語る。会社としても単なるデモンストレーションではなく、将来役に立つことを理解して進めたからこそ、うまくいったといえるようだ。
またスパコンでの成功をきっかけに、現場による社内の商用ツールを利用した解析の取り組みも進んでおり、CAE活用全体においてプラスの効果を生み出している。
今後はスパコンの混雑回避のため外部リソースの調査や、社内へのHPC導入などを考えているという。解析についてはさらに計算時間を短縮するとともに、インクジェット以外の流体解析にも展開していきたいそうだ。また事業部のメンバーによるスパコン利用の取り組みも進めているとのことだ。
渡辺氏は、「スパコンというと、とても難しく手の届かないものと思いがちです。ですが今回取り組んでみて、使いたいと思えば使いこなすことは可能だと分かりました」という。たくさんの人と協力して進めていく面もあり、周りの人たちのおかげもあってうまくいっているそうだ。またずばぬけたプログラミングの能力が必要というわけではないという。スパコンはハードルが高いとむやみに敬遠することなく、よりよい製品づくりに有効なツールの1つとして検討してみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.