デジタルツインを実現するCAEの真価

スパコンとOpenFOAMによるインクジェットヘッド解析の成果――CAEの有効性、認められるCAE事例(2/4 ページ)

» 2016年06月06日 10時30分 公開
[加藤まどみMONOist]

設計現場の「すぐ結果が欲しい」に応えられる

 インクジェットヘッドの解析に使用しているスパコンは、計算科学振興財団のFOCUSスパコンおよび東京工業大学のTSUBAMEだ。なお同社では基本的に大型の製品はないため、自動車のようにフルスケールで丸ごと解析して数億メッシュ以上になるといったような大規模な計算ではない。例えば100コア以下程度を使い、数ケースを1日で計算するといった具合だ。設計現場の「1日で結果が欲しい」という要望に応えられるような使い方をしているという。「設計にすぐ反映できるこのような使い方が、社内では最も適していると認識されています」と島田氏は話す。

 渡辺氏は2012年ごろに、インクジェットヘッド解析のため、スパコンの検討を始めた。実は当時、各事業部でCAEはあまり浸透していなかった。とくにインクジェットヘッドの開発が始められたのも2000年ごろと、業界内では後発だったこともあり、インクジェットの開発現場では試作、評価、設計変更の繰り返しが主流だったという。このままでよいのかという危機感はあったものの、CAEの立ち上げは簡単ではなく、またすぐに成果が出るようなものではないと考えられていた。そのため、忙しい現場ではなかなか取り組みが進まなかったという。

 そんな状態の中で生産技術部の渡辺氏は技術調査を始めた(図5)。

図5:インクジェットのシミュレーションに必要な要素。3次元非定常、流体-構造の連成、2相での自由表面に取り組む必要がある。液滴のしっぽまでとらえなければならない、たくさんのノズルがある、圧力波の発生といったインクジェット特有の条件もある(出典セイコーインスツル)。

 SIIのインクジェットヘッドは電圧をかけることで変形する。そのため電気、構造、流体の連成が必要だ。また非定常、自由表面の条件で、細かく飛び散るインクの飛沫まで把握する必要があり、ノズル数も多いため、メッシュもそれなりに大規模になる。当時のHPC環境を持たない社内で3次元で解析することが不可能なのは明らかだった。そのためスパコンを利用しようと考えたのは自然な流れだったそうだ。

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