構成要素の違いでクルマの印象がどう違うのか、街を走るさまざまなクルマを観察してみて欲しい。4つのタイヤの上に乗るボディのシルエットは、セダン、コンパクトハッチバック、SUV、ミニバン、スポーツカーなどでさほど種類は多く感じないかもしれない。
そこで観察をやめず、まずは街ゆくクルマのベルトラインに着目しよう。クルマをサイドから見た際の窓の下端部分を、ベルトラインとかショルダーラインと呼ぶ。クルマのキャラクターによってラインの傾きに傾向があることを感じないだろうか。
キビキビ走る感じとか、よりダイナミックな躍動感やスポーティーな雰囲気を持たせるクルマでは後ろ上がりの傾向があり、エレガントさや落ち着いた雰囲気を持たせるクルマではより水平基調になっている。
ここには何が意図されているのかというと、視覚的な動感や動きの方向性を感じさせる度合いを調整しているのだ。動物が身構えた時の姿勢であるとか、もっと身近なものだと矢印など、我々は自分の意識の中で類似の知っているものと比較し「こういうものだろう」と判断している。
デザインは視覚や触覚をはじめとした五感での効果をコントロールしている訳だが、そこには経験値からの認識、あるいは例えば錯視といったような身体器官の特性などを上手く利用するということから成り立っている。
ベルトラインは一例だが、その他にも、側面や正背面のシルエット、全長に対する全高や全幅の比率、ボディに対するタイヤの位置や大きさによっても印象が随分変わる。
また、全高の中でのベルトラインの位置や、全体に占めるキャビンの大きさ(ボリューム感)、キャビンを構成するピラー(前から順番に「Aピラー」「Bピラー」「Cピラー」と呼ばれる)の傾きや太さ、さらに、ドアやフェンダーの断面形状、灯火器の形状、フロントグリルとライトの関係性などにも傾向がある。
ブランディングの視点から見ると、自動車メーカーは、これらの構成要素の組み合わせを個性の表現に活用している。以下はその一例だ。
こうした細部を観察して、クルマのキャラクターについて考えを巡らせてみるのも面白い。エンジニアの方にもデザインを使うという視点を備えて欲しいと思いながら書いている本連載なので、観察して考えることをやって欲しいのである。
デザインは価値を創り出す役目がある。生活の中に一通りモノが行き渡った現在では、その価値にはユーザーの体験まで含まれることが多い。モノの形や色を創り出すことはほんの一部だ。
コンセプトや価値創造に関わる部分を広義のデザイン、造形や色など狭義のデザインをスタイリングと分けるとすると、先述した要素は、どちらかというとスタイリングに属する。カーデザインということでは最初に興味を引くところでもあるだろう。
しかしクルマをデザインするということでは、スタイリング以前に重要なことがある。それはクルマとしての基本骨格を決めるパッケージングだ。
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