ジカウイルスの輸入リスクと国内伝播リスクを推定する統計モデル医療技術ニュース

北海道大学は、各国のジカ熱の輸入リスクと国内伝播のリスクを推定する新しい統計モデルを開発し、推定結果を発表した。日本で2016年中にジカ熱の国内伝播を認めるリスクは16.6%と推定された。

» 2016年04月22日 08時00分 公開
[MONOist]

 北海道大学は2016年4月6日、各国のジカ熱の輸入リスクと国内伝播のリスクを推定する新しい統計モデルを開発し、推定結果を発表した。同大学の西浦博教授の研究チームによるもので、成果は同年4月5日に英科学誌「PeerJ」に発表された。

 ジカウイルス感染症はデングウイルス感染症やチクングニアウイルス感染症などと同様に、蚊(シマカ)の媒介によってヒトからヒトへ伝播するウイルス感染症だ。症状・兆候はデング熱に類似しており、軽微なことが多く、症状を呈さない感染も多数みられる。しかし、2015年4月以降のブラジルでの大規模な流行に伴い、相当数の小頭症が報告され、妊娠中のジカウイルス感染と強い因果関係が示唆されたため、この感染症が注目されるようになった。飛行機などによるヒトの移動により、アメリカ大陸以外の世界各地で感染が確認されている。

 ジカ熱の国内伝播は、ジカ熱の流行地からの輸入に加えて、蚊によってヒトからヒトへ伝播しなければ発生しない。これまでの研究から、航空機を利用したヒト移動ネットワークデータを用いた数理モデルによる予測を実施すると、各国の伝染病の輸入リスクを推定できることが分かっている。同研究チームは、ジカウイルスの国固有の輸入リスクと国内伝播リスクを推定するために、数理モデルを構築し、観察データを基にパラメータ推定と将来予測を実施した。

 航空ネットワークデータを用いてブラジルから世界各国までの実効距離(飛行機の便数や空港から空港へのヒトの流れ、密度を考慮した、感染症の世界的伝播を推定する指標)をそれぞれ計算し、国固有のジカウイルス輸入リスクを生存解析モデルによって推定。また、生存解析モデルを過去のジカウイルス輸入データ(ブラジルでの流行から輸入国までに要する経過時刻)に適合することにより、国固有の輸入リスクを十分に予測することができた。さらに、蚊を介して伝播するデングウイルスとチクングニアウイルスの疫学データを用いて、リスク推定モデルを構築した。

 その結果、国内伝播リスクは過去にデングウイルスやチクングニアウイルスの流行が認められた熱帯・亜熱帯地域において高くなる傾向があると判明した。例えばメキシコで48.8%、台湾で36.7%などだ。

 日本もデング熱の小規模流行が認められ、2016年中にジカ熱の国内伝播を認めるリスクは(ブラジルでの流行以前にジカウイルスが確認されていないと仮定した推定では)16.6%と推定された。なお、温帯では英国で6.7%、オランダで5.3%など日本よりも低い国もあった。

 今回の推定モデルの結果は、ジカ熱の国際的流行拡大に関するリスクアセスメントを実施する上で重要な科学的根拠を与えるものだ。国内伝播リスクの高い国は媒介蚊の制御が必要であり、一方で、リスクが低い国は過度に社会的不安を煽る必要はなく、渡航に伴う妊婦の感染を避けることに注力すれば良いものと示唆されるという。

photo 2016年末までのA:ジカウイルスの輸入リスク、B:ジカウイルスの国内伝播リスク。リスクの高い国は濃い赤で示されている。ブラジルでの流行以前にジカウイルスが確認された国(グレー)は除外されている。

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