燃料電池の性能と生産性を10倍に、5カ年研究プロジェクトが始動燃料電池車

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、燃料電池車の本格的な普及に向けた5カ年の研究開発プロジェクトを新たに始める。燃料電池スタックの性能と生産性を現在の10倍にするための技術確立が目標となっている。

» 2015年06月08日 06時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2015年6月5日、燃料電池車の本格的な普及に向け、燃料電池スタックの飛躍的な高性能化と低コスト化、生産性の抜本的な向上を目標とする新たな研究開発プロジェクトに着手すると発表した。

 事業名は「固体高分子形燃料電池(PEFC)利用高度化技術開発事業」で、事業期間は2015〜2019年度。初年度に当たる2015年度の予算は30億円となっている。

「出力密度×耐久時間÷単位出力当たりの貴金属使用量」を現在の10倍に

 トヨタ自動車が2014年12月に燃料電池車「ミライ」を量産発売し、それに併せて水素ステーションの整備が進んでいる。さらに、ホンダが2016年3月までに燃料電池車を量産販売する方針を示すなど、燃料電池車への注目度は増している。

 その一方で、燃料電池車の価格をさらに低減しなければ、ガソリンエンジンなどの内燃機関車に替わっての普及は見込めない。特に、中核部品である燃料電池スタックは、触媒である白金の使用量などを含めてコスト低減の余地が大きいとされている。

 今回の事業は2つの研究開発項目に分かれている。1つ目は「普及拡大化基盤技術」で、燃料電池の内部構造や反応メカニズムをさまざまな手法を駆使して解析する「PEFC解析技術開発」と、商用車への燃料電池適用に向けた耐久性評価や高性能化を実現する新規材料などに取り組む「セルスタックに関わる材料コンセプト創出」から構成されている。さらに、これらの知見から、高性能化を実現する新規材料の燃料電池への適用を可能とする設計指針の創出も目指す。

「普及拡大化基盤技術」の概要 「普及拡大化基盤技術」の概要(クリックで拡大) 出典:NEDO

 普及拡大化基盤技術では、2025年度以降の大量普及期の実用化を見据えて、2019年度末に「出力密度×耐久時間÷単位出力当たりの貴金属使用量」で現行の10倍以上を実現するための要素技術を確立することを目標としている。目標となる燃料電池スタックの個別の仕様値を表1のようになっている。

項目 目標とする仕様値
出力密度 4kW/l以上
動作圧力 1.2気圧以下
動作最高温度 100℃以上
起動最低温度 −30℃
耐久性(商用車) 5万時間、起動回数60万回(100万km走行後に所定の性能を満たすこと)
耐久性(乗用車) 5000時間、起動回数6万回(10万km走行後に所定の性能を満たすこと)
出力設定 定格電流3A/cm2以上、定格電圧0.65V以上
白金使用量 0.1〜0.03g/kW以下(耐久性能とのトレードオフ)
材料コスト スタック製造原価1000円/kW以下(10万円/100kW以下)を見通せる
表1 「普及拡大化基盤技術」で目標とする燃料電池スタックの仕様値

 参加するのは大学や研究所がほとんど。東京大学、京都大学、東京工業大学、東北大学、名古屋大学、北海道大学、九州大学、上智大学、電気通信大学、横浜国立大学、同志社大学、千葉大学、山梨大学、岩手大学、信州大学、東京理科大学、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、日本自動車研究所、トヨタ自動車や日産自動車が参加する技術研究組合のFC-Cubicなどだ。企業では、日産アーク、昭和電工、豊田中央研究所、田中貴金属工業、カネカ、パナソニックなどに限られる。

 2つ目の研究開発項目は「プロセス実用化技術開発」で、生産性の大幅な向上に寄与する新たなプロセス技術などの研究開発を推進する。2020年度以降の市場導入拡大を見据え、燃料電池スタックの生産性を現在の10倍以上に引き上げるための技術の確立を目指す。

 こちらは参加するのは全て企業だ。石福金属興業、東レ、旭化成イーマテリアルズ、SCREENホールディングス、日清紡ケミカル、ユメックスの6社が、それぞれ個別のテーマを持って研究開発に挑む。

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