同じ2015年7月、米国運輸省の連邦航空局(FAA)の航空許可を受けた、全米初のドローンによる医薬品配送の実証実験「Let’s Fly Wisely」が、バージニア州で実施されている(関連情報)。2013年にドローンの民生利用研究のために創設された「中大西洋航空パートナーシップ(MAAP:Mid-Atlantic Aviation Partnership)」が研究主体となり、運営については、バージニア工科大学がメリーランド大学、ラトガース大学と協力して行っている。
まず、米国航空宇宙局(NASA)が所有する単発低翼固定脚の軽飛行機「シーラスSR22」により、患者20人分の処方箋医薬品を、州内のテイズウェル郡空港からロンサム・パイン空港まで空輸した。航空法規上、パイロットが搭乗する有人飛行の形をとっているが、飛行機自体は遠隔で操縦されている。
次に、処方医薬品を小さなパッケージ(総重量10ポンド)に詰め替え、オーストラリア企業Flirty(フラーティ)が提供するドローンを利用して、アパラチア山脈のワイズ郡広場にあるリモートエリアメディカル(RAM)診療所の移動テントまで空輸している。図3はその時の模様を示したものだ。
なお、MAAPは、医療以外にも、電力会社のドミニオン・バージニア・パワーと共同で、ドローンを利用した送電線監視業務の効率化に向けた取り組みを始めている他(関連情報)、フロリダ州などバージニア州以外の地域への拡大策も進めている(関連情報)。
技術イノベーションが進化する一方で、ドローンを利用したビジネスの事業化に際して、各国共通の課題となっているのが、安全/安心に関わる制度的な仕組みづくりだ。
世界最大のビジネス市場と目される米国に先駆けて、ニュージーランド、オーストラリアなどが、イノベーション推進策の一環として、セーフティ対策、セキュリティ/プライバシー対策など、制度的な仕組みづくりを行っている。
例えば、ニュージーランドでは、政府機関のキャラハンイノベーションが、映画撮影に特化したドローン開発企画コンテスト「C-Prize」を開催するなど、さまざまな事業化支援策を打ち出す(関連情報)と同時に、民間航空局(CAA)が、ドローン利用に際して必要なルールを先行的に策定してきた(関連情報)。
オーストラリアでは、民間航空安全局(CASA)が、2kg以下の航空機を有する起業家向けに、オンライン申請書の提出を完了すればドローンを離陸させることができるというルールを策定した。このメリットを生かして、Google(グーグル)がクイーンズランド州でドローンによる配送の実証実験「Project Wing」を行った他、前述の全米初のドローンによる医薬品配送の実証実験に関わったフラーティ社のようなスタートアップ企業が続々と誕生している。
このような海外勢の動きに刺激される形で、米国FAAは、2015年12月21日より、個人が趣味などで購入し所有する250g以上24.95kg未満の娯楽用小型無人飛行機(sUAS:Small Unmanned Aircraft Systems)の登録制度を開始した(関連情報)。
さらに翌2016年2月24日、FAAは、新たに、重量2kg以下の商用小型飛行機(mUAS:Micro Unmanned Aircraft System)の運航のための基準や要件を定めることを目的とした航空規制制定委員会(ARC:Aviation Rulemaking Committee)の設置を発表している(関連情報)。mUAS ARCは、2016年4月までをめどに、具体的な勧告案をFAAに提出し、FAAはそれを基に商用小型ドローンに関する規則を決定する方針だ。
各国とも、航空行政機関によるルールづくりを踏まえて、医療分野のドローン利用に関わるルールづくりが本格化することになる。
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