クラリティ フューエルセルは最大500Vまで昇圧する新開発のFC昇圧コンバータ(FCVCU)を搭載している。FCXクラリティと比べて燃料電池スタックのセル数を削減=燃料電池スタックの出力電圧が低下しているにもかかわらず、モーター出力をFCXクラリティの100kWから130kWに向上できているのはこのためだ。
FCXクラリティはFC昇圧コンバータを持っておらず、モーター駆動に利用できる最大電圧は燃料電池スタックとリチウムイオン電池による330Vまでだった。しかし、クラリティ フューエルセルでは、駆動用モーター、パワーコントロールユニット、燃料電池スタックだけでなく新たにFC昇圧コンバータまでを含めた燃料電池パワートレインをボンネットに収めることが目標になっていた。
そのためにも「クラリティ フューエルセルのFC昇圧コンバータには、絶対にSiC(シリコンカーバイド)デバイスが必要だった」とパワートレインの開発担当者は説明する。FC昇圧コンバータでは、電力変換のためのIPM(インテリジェントパワーモジュール)に一般的に用いられているシリコンデバイスと置き換える形でSiCデバイスを採用した。「パワーモジュール素子の全てにSiCを適用したフルSiC」(ホンダ)としており、量産販売する自動車としてフルSiCの電力変換回路を搭載する事例は「世界初」(同社)になる。
FC昇圧コンバータの電力変換制御には4相インターリーブ制御を採用した。4つあるフルSiCのIPMの制御位相を90度ずらした4相化駆動により、スイッチング時の変動であるリップル電流を互いに打ち消して最小化する。一般的な電力変換回路では、リップル電流の平滑化のために比較的大容量のコンデンサを搭載しているが、これを4相インターリーブ制御でこれを小容量のものに置き換えた。
また、リアクトルは磁気結合型を採用し、2つのリアクトルのコイルの巻き方向がそれぞれ逆向きになるように一体化した。直流磁束の相殺でリップル電流を低減できるので、リアクトルそのものを小型化できた。
フルSiCのIPM、4相インターリーブ制御、磁気結合型リアクトルなどの工夫によって、FC昇圧コンバータのサイズは、Si(シリコン)のIPMを使用した場合と比べて40%小型化することができた。これにより燃料電池スタックの上に、従来比で100mm薄くなったFC昇圧コンバータを配置することで、ボンネット内に燃料電池パワートレインを全て収めることに成功した。
ホンダは今後、クラリティ フューエルセル以外でもSiCデバイスを積極的に採用していく方針だ。搭載モデルを拡大して生産量を増やすことで高価なSiCデバイスのコストを引き下げる。
クラリティ フューエルセルに先行して既に販売しているのが、2014年12月発売のトヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」だ。両モデルともセダンタイプのため、1年以上発売が遅れたクラリティ フューエルセルは差別化が求められる。4人乗りのミライに対して、峯川氏は「ストレスなく使える普通のセダンとして売っていく考えだ」と説明した。
写真で、“普通のセダン”クラリティ フューエルセルを紹介する。
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