トヨタから1年遅れ、それでもホンダは燃料電池車を普通のセダンにしたかった燃料電池車(3/3 ページ)

» 2016年03月11日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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「絶対にSiCパワーデバイスが必要だった」

 クラリティ フューエルセルは最大500Vまで昇圧する新開発のFC昇圧コンバータ(FCVCU)を搭載している。FCXクラリティと比べて燃料電池スタックのセル数を削減=燃料電池スタックの出力電圧が低下しているにもかかわらず、モーター出力をFCXクラリティの100kWから130kWに向上できているのはこのためだ。

FC昇圧コンバータの追加によるモーター出力の向上 FC昇圧コンバータの追加によるモーター出力の向上(クリックで拡大)出典:ホンダ

 FCXクラリティはFC昇圧コンバータを持っておらず、モーター駆動に利用できる最大電圧は燃料電池スタックとリチウムイオン電池による330Vまでだった。しかし、クラリティ フューエルセルでは、駆動用モーター、パワーコントロールユニット、燃料電池スタックだけでなく新たにFC昇圧コンバータまでを含めた燃料電池パワートレインをボンネットに収めることが目標になっていた。

FC昇圧コンバータの小型イメージ FC昇圧コンバータの小型イメージ(クリックで拡大) 出典:ホンダ

 そのためにも「クラリティ フューエルセルのFC昇圧コンバータには、絶対にSiC(シリコンカーバイド)デバイスが必要だった」とパワートレインの開発担当者は説明する。FC昇圧コンバータでは、電力変換のためのIPM(インテリジェントパワーモジュール)に一般的に用いられているシリコンデバイスと置き換える形でSiCデバイスを採用した。「パワーモジュール素子の全てにSiCを適用したフルSiC」(ホンダ)としており、量産販売する自動車としてフルSiCの電力変換回路を搭載する事例は「世界初」(同社)になる。

 FC昇圧コンバータの電力変換制御には4相インターリーブ制御を採用した。4つあるフルSiCのIPMの制御位相を90度ずらした4相化駆動により、スイッチング時の変動であるリップル電流を互いに打ち消して最小化する。一般的な電力変換回路では、リップル電流の平滑化のために比較的大容量のコンデンサを搭載しているが、これを4相インターリーブ制御でこれを小容量のものに置き換えた。

4相インターリーブ制御のイメージ 4相インターリーブ制御のイメージ(クリックで拡大) 出典:ホンダ

 また、リアクトルは磁気結合型を採用し、2つのリアクトルのコイルの巻き方向がそれぞれ逆向きになるように一体化した。直流磁束の相殺でリップル電流を低減できるので、リアクトルそのものを小型化できた。

 フルSiCのIPM、4相インターリーブ制御、磁気結合型リアクトルなどの工夫によって、FC昇圧コンバータのサイズは、Si(シリコン)のIPMを使用した場合と比べて40%小型化することができた。これにより燃料電池スタックの上に、従来比で100mm薄くなったFC昇圧コンバータを配置することで、ボンネット内に燃料電池パワートレインを全て収めることに成功した。

 ホンダは今後、クラリティ フューエルセル以外でもSiCデバイスを積極的に採用していく方針だ。搭載モデルを拡大して生産量を増やすことで高価なSiCデバイスのコストを引き下げる。

普通のセダンになれたのか

ホンダの峯川尚氏 ホンダの峯川尚氏

 クラリティ フューエルセルに先行して既に販売しているのが、2014年12月発売のトヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」だ。両モデルともセダンタイプのため、1年以上発売が遅れたクラリティ フューエルセルは差別化が求められる。4人乗りのミライに対して、峯川氏は「ストレスなく使える普通のセダンとして売っていく考えだ」と説明した。

 写真で、“普通のセダン”クラリティ フューエルセルを紹介する。

前サイド クラリティ フューエルセルの外観 (クリックして拡大)
フロントリア クラリティ フューエルセルのフロント/リアビュー
後部座席と荷室床下のリチウムイオン電池 カットモデルから見た後部座席と荷室(左)。トランクにはゴルフバッグが3つ収まる。リチウムイオン電池は床下に、2つ目の圧縮水素タンクは後部座席の座面下に搭載されている(右) (クリックして拡大)
車載情報機器シフトボタンメーター 運転席周りの様子。シフトレバーの代わりにスイッチボタンでドライブ/ニュートラル/リバース/パーキングを選択する (クリックして拡大)
右は外部給電プラグ水素は左から充填スエード調素材を多用して上質さを追求した 外部給電用のプラグは車体の右にあり、水素充填は車体の左側から行う(左、中央)。車内はスエード調の素材を採用し上質さを追求した(右) (クリックして拡大)
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