ルノーの新デザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』はなぜ生まれたのかクルマから見るデザインの真価(8)(1/5 ページ)

フランスの自動車メーカーであるルノーは、新たなデザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』のもとでクルマづくりを進めている。1990年代以降、変化してきたフランス車の『らしさ』や、日本市場でのルノー車の受け入れられ方とともに、ルノーが『サイクル・オブ・ライフ』でどのように変わろうとしているのかを読み解く。

» 2016年02月02日 10時00分 公開

 本連載「クルマから見るデザインの真価」も、2015年2月末の第1回から約1年が経過した。これまで7回の連載では国内自動車メーカーのデザインを取り上げることが多かった。今回は、海外の自動車メーカーのデザインを取り上げたい。テーマは、フランスの自動車メーカーであるRenault(ルノー)の「ルノー・デザイン」だ。

 現在ルノーは『サイクル・オブ・ライフ』というデザインコンセプトのもとでのクルマづくりが進行中である。この“デザインコンセプト”とは、そのブランドの『らしさ』を個別モデルのデザインに落とし込む際の指針のようなものだ。

 これまでの自動車メーカーのコンセプトといえば、BMWの「駆け抜ける歓び」に代表されるような、クルマのパフォーマンスやキャラクターをまずは訴求するといったものが主流だったように感じる。しかし、ルノーの新しいデザインコンセプトで筆者が興味を持ったのは、人を中心に置いたものである点だった。

 「東京モーターショー2013」では、コンセプトカー「DEZIR(デジール)」を中心に配した展示で、日本でも本格的に『サイクル・オブ・ライフ』が紹介されているのを見ながら「これがどのように展開されていくのかなぁ」と関心を持ちながら眺めていた。

「東京モーターショー2013」で披露されたコンセプトカー「DEZIR(デジール)」 「東京モーターショー2013」で披露されたコンセプトカー「DEZIR(デジール)」(クリックで拡大)

 現在は、「ルーテシア(フランス名:クリオ)」に続き「キャプチャー」、そして2016年に日本にも導入されると思われる新型「トゥインゴ」と、『サイクル・オブ・ライフ』コンセプトのモデルが増えてきた。そこで、このコンセプト導入による変化について、ルノー・ジャポン マーケティング部広報グループ・マネージャーの佐藤渉氏に伺った。

ルノーの「ルーテシア」ルノーの「キャプチャー」ルノーの新型「トゥインゴ」 左から、「ルーテシア」「キャプチャー」新型「トゥインゴ」(クリックで拡大) 出典:ルノー

変化してきたフランス車の『らしさ』

 インタビュー形式で話を伺う際には、いきなり主題から入るときもあれば雑談のような関連話題から始まるときもある。今回は後者のパターンで、「サイクル・オブ・ライフ』やルノーの『らしさ』を聞く前に、ドイツ車やイタリア車などとも異なる、フランス車らしさの話題から始まった。多くの場合、こういった“雑談”部分はカットしてこの連載の記事を書くのだが、今回は外部環境の変化にともなう『らしさ』の変化の話がなかなか面白かったので紹介してみたい。

 話の突端は「最近のフランス車に乗ると、だんだんとドイツ車に近いようなフィーリングになってきてるように感じる」ということを筆者が言ったことなのだが、「実はそこにはですねぇ……」と佐藤氏から出てきたのは、各種の電子制御安全デバイスの装着が当たり前になることと連動しているという説明だった。

 フランス車のイメージと言えば、一見表面はふかふか柔らかく、奥ではしっかりと身体を支えるストローク量の大きいシートと、同じくストローク量の大きなサスペンションによるしなやかな乗り味が特徴的だった。しかし最近のフランス車はその印象が薄くなってきていて、ドイツ車のがっちり感を訴求する方向に近づいてきているように感じる。

 佐藤氏によると、「ストロークの大きなシートは、エアバッグの展開制御と相性が良くなく、同じくフランス車的な味付けのサスペンションはABSやトラクションコントロールなどの制御プログラムとの相性があまりよろしくない。しかし時代の流れとしてはこういったデバイスは装着が当たり前になっているので、それに合わせるように最近のフランス車の乗り味も変化してきている」とのことだった。

 フランス車の乗り味の変化ということについて、これまで筆者は「フランス車の対象とするマーケットが、ほぼフランスのみを見ていれば良かったのが、ワールドワイドに目を向けなければならなくなり、市場ではドイツ車的なものの方が支持度合いが高いため変化してきたでは?」と思っていた。どうやら必ずしもそうではなかったようだ(今回佐藤氏の話を聞いて、今度は逆に、各種の電子制御デバイスの標準装着化により、メーカーの思想よりサプライヤの都合のようなものの存在感が大きくなった結果というのもあるのでは? とも考えてしまったのは、へそ曲がりか)。

 しかし対象マーケットの変化というは、ルノーにとって『サイクル・オブ・ライフ』を作るきっかけになったのだという。

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