FC-PIUSに採用した水素吸蔵合金は安全性が高い。その一方で、クルマとしての作り込みは難しくなった。水素吸蔵合金から燃料電池セルスタックに水素を供給する際、水素の供給量を増やそうとするとタンクの温度が下がり過ぎて効率が悪化する。しかし、子ども用の車両とはいえ、車体は255kgもあり発進時には大きな負荷がかかる。そこで、モーターの出力や電流を調整して最適な駆動システムを完成させた。
FC-PIUSの水素タンクはカートリッジ式で、専用の装置で水素を充填し、およそ8時間を目安に交換する。タンクは一般的な消火器を二回り小さくしたサイズだが、重量は4kgと見た目に反して重い。
FC-PIUSのサイズは全長2535×全幅1233×全高1070mmで後輪駆動方式。燃料電池セルスタックの定格出力は360W、瞬間最大出力が500W。最高速度は時速5km。身長115cm以上の小学生が対象となる。身長160cmの筆者ではステアリングに膝がぶつかり、座席はかなり窮屈だった。動かし方は運転免許が必要なクルマと同じで、シフトレバーや方向指示器も使用できる。
ライドスタジオで走行体験に参加するには、初心者講習の受講が必要になる。受講後、運転免許証を模したスタンプカードが発行され、乗車の回数が増えると“ゴールド免許”に切り替わる。FC-PIUSに乗車するには、ゴールド免許の取得と、ライドスタジオで実施する燃料電池教室の受講が条件となる。
燃料電池教室では、燃料電池で駆動するラジコンカー「RC Car MIRAI」を使用する。ラジコンカーメーカーの京商が開発したもので、市販されていない。実験キットで化学反応を学んだあと、水素タンクと燃料電池セルスタックの組み合わせでラジコンカーが走る様子を確認し、講座を修了する。
モディーと京商は、これらの子ども向けの燃料電池車に関連する利益は見込んでいない。採算を度外視してでも取り組むのは「燃料電池車について正しく知ってもらいたいと思うから」(モディー デザイングループの橋本崇宏氏)だという。
モディーが開発したPIUS/FC-PIUSは単なる子ども用の乗り物ではなく、大人向けの教材としても活用される。メガウェブで使用している電気自動車のPIUSは子供が乗ることを想定したサイズだが、大人が問題なく乗れるタイプも取りそろえている。またPIUSは、誰でも分解/組み立てができるよう部品点数を減らしながら、実走も可能な点を特徴としている。
これらの特徴を生かし、大学などで技能実習や研究開発のベース車両として利用されている。また「ベトナムやサウジアラビアなど新興国の技術者育成にも貢献している」(橋本氏)という。FC-PIUSも、分解/組み立てが可能だとメドがつき次第、教材用としてメガウェブ以外にも広く展開していく。
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