バーチャルなモノづくりが強力な力を発揮する手法の1つとして、CAE結果をバーチャルリアリティとして表現することがある。これは誰でも「直感的に物理量が表現できる」のがメリットだ(図5、6)。
より具体的には、例えばCFDの計算結果で“流れ”が見た目で分かる。何かパーツを付けようとなったときに、その効果の検討に専門家以外も加わることができる。内田氏自身の経験では、実際に検討で設計変更内容が変わったことが何件かあったという。またサプライヤとのスタンピング加工の相談で、金型を2つに分けるか1つにするかとなった時、クラックが入るため2つに分けた方がいいという提案に、CAE結果を可視化して1つにしても問題ないだろうといった議論ができた。
「リアルに見える」ことの効果は大きく、CAEの専門家にしか分からないデータが多くの人に共有できるようになるとともに、よりリアルなイメージの喚起や気付きが得られる。別の方向を向いている組織間で共通の議論を可能にするコミュニケーションツールとしての役割も大きい。
「衝突解析で合わないと言っているが、正確なモデルを出すこと、実験データをたくさん集めることが非常に重要だ」と内田氏は言う。プレスでは実際には板厚が減る。そういった実際のデータを集めて自動車全体のモデルを作り、衝突解析をすれば非常に高い精度で一致する。要は実際のテストと同じ条件で計算していない」ということだ。
現在は実条件に合わせればCAE結果も精度よく出すことができ、実際にEUはCAEを用いたバーチャルテストと実物を使ったリアルテストの結果の相関確認を取ることをプロジェクト内で2009年までに終わらせているようだという。
CAEは2種類ある。V字プロセスにおける右側の検証軸を中心に使用するCAEか、左のフロントローディングで利用するCAEだ。今まで積み重ねてきたCAE技術を同じフォーマットで左側でも使えるようにしようとするためのルール作りを今、EUが進めているということだ。
CAEのV字プロセスの右から左への移行が進むが、その動きは内田氏らが開発した技術がきっかけだったという。3DデータをCAEに掛けるにはオートメッシュの技術が必要だった。だが3次元CADを提供していた海外ベンダーには、データをオートメッシュに掛けるという発想がなかったため、内田氏らの活動で初めて2000年ごろにそれが可能になったという。「それをやった瞬間、CAD/CAM/CAEがつながった」。だがその後、Vプロセスの左側でも活用しようと動いたのは、日本ではなく欧州だったという。「CAEはこういうものだろうという感覚が日本では打破できない。これは世界の動きについていけない最大の原因の1つになるだろう」(内田氏)。
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