擦り合わせ開発の難しさは、擦り合わせる組織の開発文化が異なることです。モデリングも同様で、モデリングの目的や手法、ツールがばらばらになっている可能性がありますので、文化を超えるモデリングが必要になります。
このときのコツというか方針は、モデリングの基本に戻ることです。モデルとは何で、何を目的にし、何を対象にし、いつ誰がどのように作成するかをもう一度一致させる必要があります。実際は一挙に一致させることは難しいので、少しずつ、モデルを1個ずつ擦り合せていくのが吉です。その方が擦り合わせの効率が良くなるでしょう。モデル図の目的などの調整(擦り合わせ)も他の擦り合わせと同様に、少しずつ確実に実施してください。
擦り合わせ開発を計画的に、何段階も行う開発のときは、モデリングも計画的に何段階にも分けて、擦り合わせしていきます。このときオブジェクト指向モデリングは武器になります。抽象度が高いので、ハードウェアを含む多くの場面で適用可能です。但しオブジェクト指向モデリングでは時間や制約条件の記述が弱いということがありますので、このときは別のモデリングをしてください。
形式手法でモデルは重要な概念で、モデリングが作業の中心になります。しかし、この連載では形式手法には触れず、別の機会にしたいと思います。形式手法でも軽量級形式手法と一般の(重量級)形式手法では、方針が異なり、モデル検査か形式的仕様記述かでも、モデリングが異なります。このときもモデリングの目的や粒度、対象を明確にしないとコストパフォーマンスが悪くなりますので注意してください。
今回の記事で触れてきたキーワードや教訓をモデラーへの長い道としてまとめています。詳細は本文を見てください。
次回はモデリングの失敗例を見ていきます。モデリングはなぜ失敗するのか、失敗例から私たちが学ぶこと、なぜ失敗がしたのかという原因分析、失敗を反面教師として役立てるにはどうすればいいのかなどを紹介する予定です。
また今回、紙面の都合で紹介できなかったモデリングの実態調査の結果やモデリングの例、モデル駆動開発やモデルベースアプローチなども紹介する予定です。
OKI(沖電気工業) シニアスペシャリスト、エバンジェリスト。博士(工学)。
ソフトウエアの開発支援・教育に従事。電子情報振興協会(JEITA)専門委員会の委員長や情報処理振興機構(IPA/SEC)などの委員多数。三重大学などの非常勤講師も務める。エンタープライズ系と組み込み系におけるソフトウエア開発の知見融合が関心事。
共著書に『定量的品質予測のススメ』(オーム社、2008年)、『プログラミング言語論』(コロナ社、2008年)などがある。
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