クーニー氏はまず、「アナと雪の女王」で最も印象的なシーンである、「Let It Go」(邦題:レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜)のシーンから取り掛かろうとした。このシーンでは、主人公の一人、エルサが自らの魔法を開放し、雪の城を作るというものだ。この「エルサの魔法」を考えるため、まずチームが行ったのは「リサーチ」だ。映画の舞台、架空の国「アレンデール」のベースとなったノルウェーに向かい、現地の環境やフィヨルドの姿、そしてノルウェーの伝統的なアートである「Rosemaling」を学んだという。
ディズニーのアーティストはRosemalingのペインティングから、アルファベットの文字「C」や「S」の形を見いだし、ここからインスピレーションを得て、エルサの魔法のエフェクトが作られた。そのイメージは下記の動画でも見ることができる。クーニー氏はエルサの魔法について「様式化し、“アート”にしたかった」と述べる。
アニメーションの煙や火、水といったエフェクトは、ストーリーテリングに影響を与えなくてはならないとし、チームは独特なデザインでこれらを映画に取り込むことを考えた。さらにチームは“ドクター・スノー”と呼ばれる、米カリフォルニア工科大学の物理教授 ケネス・リブレクト氏に氷の形成を学び、独自の「結晶ジェネレーター」を作るに至る。このジェネレーターに湿度、温度などをパラメーターとして入力すると、六角形を基本とした雪の結晶が作れるという。これを基に初期の“エルサの魔法”を制作することで、アーティストたちのインスピレーションを導いた。
会場では、オートデスクのモデリングツール「Maya」のビューポートを使い、ストーリーボードと呼ばれる一枚絵にこれらのエフェクトを組み合わせた、プレビズ段階の映像が上映された。その内容は、最終的に完成したレット・イット・ゴーのシーンとイメージはほとんど変わらないものであった。クーニー氏は、エフェクトを組み込んだものを用意することで「初期のプレビズにおいて、さまざまな可能性を熟慮できるようになった」という。「デザインの全ての要素をプレビズ段階で入れ込むのではなく、基本的な重要な部分を選んで作り込むこと。残りの部分は、見る人の“イマジネーション”に任せる」(クーニー氏)。
エルサの魔法について、クーニー氏は「アーティストである彼女の感情がそのまま魔法に反映される。ボールルームにおけるシーンでは、恐れの感情を持っているので“力をコントロールできない”ことをエフェクトで表現したかった」と語る。そして、レット・イット・ゴーにおける雪の城を作るシーンでは「クリエイティブな彼女らしいやり方」をエフェクトで表現する。ピクサーの監督であるジョン・ラセター氏の助言から“結晶の六角形をイメージし、自然に忠実に”と考えられたそのシーンでは、初期のプロトタイプの時点でスタッフを大いに驚かせ、興奮させたという。このシーンの最初のクリエイティブ制作は5日間程度、その後カメラショットを音楽とシンクロさせたり、エフェクトを完成させたりするまでに約9カ月を要したそうだ。
これらのエフェクトを反映し、最終的に完成した映像の成果は皆さんもよくご存じのことだと思う。クーニー氏は最後にこのシーケンスに25カ国語の歌を組み合わせた映像を上映し「これがプレビズ段階とほとんど変わっておらず、出発点のアイデアが最後のフレームまで生き続けているのが分かると思う。これが、アーティストたちの仕事のハイライトだ」と述べた。
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