ドリームワークス・アニメーションでは、ディレクター、プロデューサーが制作プロセスを統括しており、その配下にプロダクションデザイナー、アートディレクター、VFXスーパーバイザーがチームを束ねている。ここには「アートを追求するか」「技術を追求するか」に加え、「スケジュールを守れるか」「コストは予算の範囲内か」という課題も当然ある。そのため、サーフェイサーをはじめとするメンバーもどこまで品質を追求するのかは永遠の課題であるようだ。
「ヒックとドラゴン2」は、CGの制作期間だけで2〜3年の時間を費やしている。CG制作スタッフは約400人、映画全体では約800人が携わる。総レンダリング時間は、1CPUで処理したと仮定すると1万381年。これは過去のドリームワークス・アニメーション作品と比べてもかなり飛び抜けた処理量だという。
その理由は「ディテール」へのこだわりだ。2010年に公開された1作目の「ヒックとドラゴン」に比べても、キャラクターの質感は大きく改善されている。これは新しいソフトを使うことでできることがかなり増えて、データ量が大きくなったことが要因だ。
例えば、山本氏が担当したキャラクター「フィッシュ(Fishlegs)」は、毛皮でできた服を着ている。このキャラクターのコンセプトアートには、「長くこの服を着ているので、お尻の部分は座ったときの跡がある」「さまざまな毛皮を縫い合わせたように」「バックルの質感は使い込んでいるのが分かるように」といった毛皮の服に対する細かな指示が書かれている。
これらの指示を基に、サーフェイサーである山本氏は参考となる資料を集め、グレー1色の3Dモデル(T-poseモデル)に質感を与えていく。ソフトウェアの進化により「産毛」の表現も細かくできるようになったとのことで、「違うタイプの産毛を複数研究し、質感にこだわった」と山本氏は述べる。「フィッシュは成長し思春期を迎えているので、前作にはなかったヒゲの感じもうまく表現できていると思う」(山本氏)。
特に山本氏が苦労した点として、双子のキャラクター「タフ(Tuffnut)」のドレッドヘアーを挙げる。山本氏はまず、ドレッドヘアーの資料を集めることからスタートし、直感で「筒を定義し、その表面から毛を生やす」という表現方法を考えた。ところが、実際に試してみるとドレッドヘアーではなく、「どうしても三つ編みにしか見えなかった」(山本氏)。この時点で、既に数カ月の時間を費やしていたそうだ。
スケジュールに追われた山本氏は、まずその「モデルのみ」の許可をもらう。まずは単なるチューブとしてモデルを作り、リギングと呼ばれる動きを作り込む作業を並行しつつ、ドレッドヘアーの3DCGにおける再現に取り組んだ。そして試行錯誤の末、山本氏は「ドレッドヘアーの形を作る“透明な筒”を作り、その内側へ向けてファーを生やす」という表現に至る。毛についても表面側を細く、先を太くすることでドレッドヘアー特有の絡まりを表現できた。この表現方法を山本氏は「シェルコンテインドファー」と呼び、無事にディレクター/プロデューサーのOKを得たという。
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