中央大学は、ヘモグロビンを血清タンパク質であるアルブミン3個で包み込んだ新しい人工酸素運搬体の製剤化に成功したと発表した。ラットを使った実験により、血液適合性に優れ、副作用がなく、安全性の高い人工酸素運搬体であることを実証した。
中央大学は2015年7月27日、ヘモグロビンを血清タンパク質であるアルブミンで包み込んだ、新しい人工酸素運搬体の製剤化に成功したと発表した。同大理工学部の小松晃之教授の研究グループによるもので、7月29日に英オンライン総合科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。
輸血液の代わりに生体へ投与できる人工酸素運搬体(血液代替物)の実現は、次世代医療の最重要課題の1つとされている。これまで、ヘモグロビンを化学修飾した修飾ヘモグロビン製剤など、さまざまな物質が合成されてきたが、副作用(血圧上昇)や有効性に問題があり、実用化には至っていなかった。
同研究グループは、ヘモグロビンの分子表面に3個の血清タンパク質「アルブミン」を結合させた、新しい人工酸素運搬体(ヘモグロビン-アルブミン)クラスタを2013年に開発。酸素運搬の役割を担うヘモグロビンをアルブミンで包む(クラスタ状分子にする)ことで、アルブミンの性質を持ちながら、赤血球のように酸素を運べる新しいタンパク質複合体を作製した。
今回、これを発展させ、臨床利用に最適な組成と濃度を決定し、効率の高い調製法を確立することで、人工酸素運搬体としての製剤化に成功した。製剤名は「ヘモアクト(HemoAct)」で、ヘモグロビンをアルブミン3個で包み込んだ構造となっている。
さらに同研究グループでは、慶應義塾大学医学部、崇城大学薬学部、熊本大学薬学部と共同で動物実験を実施。実験では、ヘモアクトをラットの生体内へ投与しても、血圧の急激な上昇という副作用は認められなかった。ヘモアクトの血中半減期は血清タンパク質であるアルブミンよりも長く、血中滞留性は良好だった。ヘモアクトを投与したラットの健康状態・体重増加量は未投与群と変わらず、血液生化学検査の結果は、26項目全て未投与群の値と同等だった。また、主要臓器(肝臓、腎臓、脾臓、心臓、肺)の病理検査でも異常はなかったという。
これらの結果は、ヘモアクトが血液適合性に優れ、副作用がなく、安全性の高い人工酸素運搬体であることを実証している。今後は、ヘモアクトの実用化が人工赤血球の開発につながると期待されるとしている。
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