自動運転の法整備をけん引する米国。これに対して欧州の動きはどうか。
欧州全体で見ると、EC(欧州委員会)が推進する研究開発のフレームワーク「ホライゾン2020」(2014〜2020年)の枠組みで、自動運転の議論が行われている。2015年4月には、米国との共同歩調を探るため、ワシントンDCでシンポジウム「Automated Road Transport」を実施した。主要な議題は、V2Vによるフリーウェイでの縦列走行、市街地での自動運転、そして都市部での自動タクシーサービスだった。
この他欧州では、EU(欧州共同体)による自動運転に特化したフレームワーク、AdaptIVe(Automated Driving Applications and Technologies for Intelligent Vehicles)がある。ここでは、欧州全体での法整備、人間工学的な観点での協議、そして認証について協議されている。
こうした欧州全体の流れの中で、各国が個別に自動運転に関する実証試験を実施する、または実施する計画がある。主要な事例は、英国、スウェーデン、ノルウェー、そしてフランスである。
そして日本からは今回、ITS Japanが講演。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをキッカケとし、内閣府が取りまとめを行なうSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)における自動運転技術の開発内容について説明した。講演では、2015年10月開催の「東京モーターショー2015」に先立ち、お台場地域で自動運転に関する最新技術の公開を行うことを強調した。
日米欧以外では、今回のシンポジウムで全く発表を行わなかった中国の動向が気になる。ここ数年、上海モーターショー、北京モーターショー、さらにSAE(自動車技術会)中国のカンファレンスで、第一汽車、東風汽車、広州汽車、長安汽車、奇瑞汽車、長城汽車などの中国地場メーカーが、自動運転車のコンセプトモデルを出展している。また、中国の地図データ関連のカンファレンスでも、自動運転に関する協議が積極的に行われている。
その背景には軍需向けの自動運転技術開発がある。地図データ関連企業の関係者らは「民生向けよりも軍需向けの開発を優先しており、米国のDARPAと同じようなコンテストを定期的に行い、中国地場メーカーの技術進化を中国政府側が確認している」と語る。こうした動きは当然、外部に情報が伝わりにくく、中国における自動運転の技術レベル、さらには中国内での自動運転に関する法整備の動向は不明な部分が多い。
今回のシンポジウムで、前回の2014年と最も大きな差として感じたのが、自動運転技術の投資案件としての観点だ。
1つのセッションでは、議題を投資に絞り、投資銀行、ベンチャーキャピタル、さらに業界アナリストが参加したパネルディスカッションを実施した。その中では、自動運転技術に対してではなく、サービス事業に関する投資が重視された。近年、Uber、Lyft、RelayRidesなどのシェアリングサービス事業分野が急成長しており、これらと自動運転やV2Vが連携するという見方だ。Uberは今回、講演は行わなかったが、Uber Advanced Technologies Centerとしてブースを展示し、シンポジウム参加者らと積極的な意見交換を行った。
米国では2017年のV2V量産化をキッカケとして、シェアリングを含めて、自動運転関連の新しいサービスモデルが登場する可能性が高い。
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.