QV-10のヒット後、他社も液晶付デジカメを続々と販売開始。銀塩カメラの性能に追い付こうと、画素数などの性能競争が激化した。しかし「世の中にない面白いものを作る」を追求するカシオは性能競争に乗らなかった。「各社が100万画素カメラを打ちだす中、35万画素で合成ができるという機能を作っていた」(中山氏)
性能競争に出遅れたカシオは、2000年頃まで販売面では不振を余儀なくされる。「ここでデジタルしか、われわれしかできないことは何だろう、と原点に立ち返った」(中山氏)。そこから生まれたのが「EX-S1」。銀塩フィルムカメラにはできない「薄型カードサイズ」の世界最薄デジカメ(当時)だ。EX-S1で新たなユーザーを獲得、その翌年に発売した薄型ズームカメラ「EX-Z3」(2003年)は全世界で大ヒットとなる。
これで勢いを付けた同社は、以降もトレンドに追従しないデジカメ作りを続けた。従来機の2.5倍の長電池寿命を持つ「EX-Z40」(2004年)、画素競争が収まっていた2006年にあえてコンパクトデジカメとして業界初の1000万画素機「EX-Z1000」を開発し、最近ではカメラ部分と液晶画面付きのコントローラー部分を分離できる「EX-FR10」(2014年)を発売している。
ユニークな路線でデジカメ開発を進めてきたカシオだが、その背景は会社全体の風土にある。「デジタル技術によってまったく新しい価値を創造する」という旨が社是にもあり、「社内の商品審議会でも、『それはまだ世に出ていないんだろうな? 新しい価値はあるんだろうな?』という視点で指摘がある」(中山氏)。
そんなカシオが考えるカメラの理想とはなんだろうか。
「われわれはカメラを作りたいのではなく、例えば、運動会でビデオ撮影をする父親がずっと我が子をファインダー越しに見なくてはならない、そんな状況を打破するようなことに価値を置きたい」(中山氏)。
そのキーワードとして「レス」をあげ、静止画と動画の境界を無くし、全て撮っておく「静止画と動画のボーダーレス化」や、一度撮影すれば後からズームができる「光学ズームレス化」などをあげた。「カメラに任せておけば、いつのまにかカメラが全て撮ってくれている、というのが画像文化の理想だと考えている」と将来を語る。
進行役の麻倉氏は「流行に惑わされることなく一貫してビジュアルコミュニケーションツールを作っているのはカシオだけ。デジタル技術の進歩にあわせて製品を作る他社にはマネできない特別な存在だ」とイベントを締めくくった。
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