「電卓」という成熟した市場に現れた、G-SHOCKっぽいカシオ計算機のタフネス電卓「fx-FD10 Pro」。土木測量に役立つプログラムを搭載し、屋外の操作でも安心なタフネス性能を備える製品はどのようにして生まれたか。
カシオ計算機が2014年4月に販売開始した電卓「fx-FD10 Pro」は土木測量現場での使用に特化し、使用頻度の高い数式や屋外での使用に適したタフネス性能を備えた製品だ(関連記事:カシオがG-SHOCKっぽいタフネス仕様の電卓を発売――土木測量向けに)。
「電卓」という成熟しきった市場に「土木測量専業」という付加価値を持って投入された本製品の開発背景はどのようなものだったか。製品企画担当の同社コンシューマ事業部 第一開発部 商品企画室リーダーの根岸修氏と、ソフトウェア仕様担当の大野真人氏に話を聞いた。
――卓上計算機(電卓)の国産第一号機が登場してから半世紀を過ぎ、市場としては成熟しきった感もありますが、なぜここで「土木測量専業電卓」という製品を投入しようと考えたのでしょう。
根岸氏 電卓は手元で計算が素早く行える道具ですが、四則演算や百分率などシンプルな計算機能だけではなく、さまざまな関数を処理できる関数電卓にも需要があります。その関数電卓の中に、より複雑な処理を簡素な操作で処理できるプログラム関数電卓と呼ばれるジャンルがあります。
土木測量の現場では既に、弊社のプログラム関数電卓「fx-5800P」に土木測量作業に適した計算プログラムをプリセットしたOEM製品が広く使われています。ですが、基本的には学習の場など、屋内を想定した汎用製品なのでハードウェア的に屋外で使われることは想定しておらず、風雨やホコリなどに耐えられるタフネス性能が欲しいという要望がありました。
このように国内市場である程度の需要があることは分かっていましたが、製品化の検討が加速したのは、中国と東南アジアを中心としたアジア市場での潜在的な需要が見込めたからです。
アジア諸国では経済成長に伴う道路建設の機会増が見込まれていますし、測量機器メーカーも東南アジア市場を狙って動き出していました。実際、北京五輪(2008年)に伴う中国国内の建設ラッシュ時には、fx-5800Pが中国向けとして大きな販売実績を残しており、その後もfx-5800Pはアジア諸国の土木測量現場で広く使われているのです。
――では「土木測量専業電卓」としての商品企画を進める際、どのような要件を目標としたのでしょうか
根岸氏 まずは以前から要望の寄せられていたタフネス性能を実現することですね。ただ、電卓という製品は卓上からの落下は昔から想定されており、落下に耐える耐衝撃性能についてはノウハウが蓄積されていたので、水とホコリに対するタフネス性能を実装することから考えました。
水とホコリでは、ホコリからの保護、防塵により気を配りました。土木測量の現場は基本的に野外なので雨だと作業中止ですからね。ただ、雨の降り始めやトンネルなど水分の多い現場がありますので、水しぶきがかかっても大丈夫な防沫性能は備えています。ホコリについてはどんなにひどい状態となっても作業中止になることはほぼありませんので、ホコリが侵入しないように防塵型としています。
見た目はG-SHOCKっぽいのですが、デザイン的なアプローチはかなり異なっており、手袋をしたまま片手で操作するなど使用条件の似ているハンディターミナル開発での知見が生かされています。サイドボタンをつけながらも、必要な機能を絞り込むことでボタン数を減らしたり、また、滑りにくいエラストマ素材を外装に使ったりといった部分ですね。
大野氏 商品企画に参加するまでは土木測量に関する知識を持ち合わせていなかったので、fx-5800Pが現場でどのように使われているか現場見学をさせて頂いたり、実際に測量士の試験問題を解いたりしながら、必要な機能が何かを考えていきました。その結果、ボタン数を38まで減らし、各ボタンのサイズを大きくすることができました。
根岸氏 関数電卓としての汎用(はんよう)性よりも、土木測量の現場で快適に使えるツールであることを重視し、例えば、電卓上のボタンにプリセットの関数も微分や積分ではなく、三角関数など土木測量の現場で利用できるものを選びました。そのため、一般的な関数電卓として使うと使いにくいのですが(笑)。
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